「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

3−1 真空計の種類と用途

1998.11.05

keywords: vacuum gauge, pirani, ionization gauge, geissler, bourdon, diaphram, RGA, QMA, penning


 周囲の圧力よりも低い圧力(つまり真空)を測定する圧力計を真空計といいます。真空計には様々な種類があり、目的によって使い分ける必要がありますので、高真空までの領域でよく使われる(と思われる)ものについて、その原理や圧力範囲、用途等を説明します。

真空計の分類

 圧力を測定する原理によって真空計を分類すると、右図に示すように3種類に分けられます。一つは圧力そのものを検知する方法、一つは運動量や熱の輸送量が圧力に依存することを利用する方法、もう一つは気体の電離現象を利用する方法です。

 圧力を力として検知する真空計では、全圧を測定することができ、図中「圧力」の欄に「全」と記載してあります。輸送や電離を利用する真空計でも全圧を表示しますが(質量分析計以外は全圧しか表示しませんが)、同じ圧力であっても気体の組成によって表示される値は変わりますので、厳密には全圧計とは言えません。そこで、欄中では「(全)」と括弧付きで記しています。

 表示された値を電気信号で取り出せると、記録や制御に便利です。やろうと思えばどんな計測器からでも電気信号を取り出すことはできると思いますが、市販されている真空計の内、信号出力端子が備わっているものに○印を付けておきました。これらは、一次信号が電流や電圧である測定器です。

 圧力範囲はおおよその値です。製品や測定子の仕様によって、測定可能な圧力範囲は異なります。また、一つの測定子では範囲が狭いけれども、複数を組み合わせることで広い領域をカバーできるもの(隔膜真空計)や、同じ真空計に分類されているけれども、圧力範囲によって測定子の形状が異なるもの(電離真空計)などもありますから、実際に使用したり購入したりする場合には、取扱説明書やカタログ等で確認する必要があります。

個々の概要

 以下では図中に記した真空計について簡単に説明します。いくつかについては別のページにリンクし、そこでやや詳しく説明することにします。写真1に測定子の外観を掲載しました。真空用の継手と違って、測定子は外観だけでは判らないことがよくあります。この写真は参考例だと思って下さい。

ブルドン管真空計 (Bourdon tube gauge)

 差圧(片方の圧力は通常は大気圧)の力で弾性変形した変位を針に伝えて、回転角として表示する真空計です。測定部と表示部が一体になっており、簡便で安価ですが、大気圧付近の圧力しか測定することができません。

マノメータ (manometer)

 真空計として用いられるマノメータは、長さが1m強のU字状をしたガラス管内に、半分ほどの高さまで水銀を満たし、目盛板(物差し)とともに鉛直に設置したものが一般的です。管の片方の端は大気に開放し、もう片方を真空系に接続しますと、大気との圧力差がそのまま2本の管内の水銀面の高さとして表示されます(注1)。よく知られているように、この高さの差(水銀柱)をmm単位で表した圧力が Torr であり、差圧が1気圧であれば、水銀柱は760mm になります。絶対圧の測定が可能で、かつ確実な真空計ですが、毒性のある水銀を扱うことから、様々な注意や対策が必要です。このため、計器の較正を行うような場所以外では、隔膜真空計に替わられつつあるようです。

マクラウド真空計 (McLeod gauge)

 マノメータと共に、絶対圧を測定することが可能な全圧計で、マクレオドと発音することもよくあります。構造は若干複雑なのですが、非測定系の気相を既知容積の空間に取り込んで圧縮し、その結果増加した圧力を水銀柱として表示します。マノメータよりも低い圧力を高い信頼性で測定できる利点がありますが、水銀を使用すること、連続して測定できないこと等から、計器の較正が必要な場合以外にはあまり用いられません。

隔膜真空計 (diaphram gauge)

 差圧の力で薄い板を弾性変形させ、その変位から圧力を求める全圧計です。弾性変形を利用する点ではブルドン管と同じですが、より低い圧力を精度良く測定でき、電気信号も容易に取り出すことができます。ただし、一つの測定子で測定可能な圧力範囲は、3桁程度であり、上図に示した領域をカバーするためには、複数の測定子(圧力領域によって厚み等が異なる)を用いる必要があります。

ピラニ真空計 (Pirani gauge)

 代表長さが気体の平均自由行程よりも十分小さい場合、つまり分子流領域では、気体分子が固体から奪う熱量は圧力に比例するという原理に基づいています。油回転ポンプで到達可能な中真空を測定するのによく用いられます。

熱電対真空計 (thermocouple gauge)

 ピラニ真空計と同じような原理で圧力を測定します。ピラニ真空計に較べてやや精度は劣りますが、回路が単純で安価であるのが特徴です。

ガイスラー管 (Geissler tube)

 高電圧放電の形状や色からおおよその圧力を判断する真空計です。圧力が明示されませんので、真空計に分類されないこともあります。上表では電離現象を利用すると記載していますが、励起された原子も光を発しますので、電離量のみを観察している訳ではありません。色々と欠点はありますが、構造が簡単なこと、遠くからでも視認性が良いこと、気体によって放電色が異なること等から、粗引き系の圧力モニタ(注2)や漏れ検査器として今でも用いられています。

ペニング真空計 (Penning gauge)

 ガイスラー管と同様に気体の放電現象を利用しますが、電離したイオンの数から圧力を換算するため、定量性があります。また、磁場を併用して電子の飛行時間を長くしているため、ガイスラー管よりも低い圧力で放電を維持することができます。電離真空計よりは定量性に劣りますが、構造が簡単で測定子が壊れにくいことから、高真空領域であまり精度を要しない圧力測定によく用いられます。

電離真空計 (ionization gauge)

 加熱したフィラメントから放出された熱電子を加速し、気体分子と衝突させるとイオンが生成します。イオンの生成量が気体分子の密度に比例することを利用して圧力を測定するのが電離真空計です。ペニング真空計も電離現象を利用しますが、放電によるため、冷陰極電離真空計と呼ばれることがあります。これに対し、電離真空計は熱電子によるため、正しくは熱陰極電離真空計と呼ぶべきですが、慣用的には単に電離真空計と言うことが多いようです。シュルツゲージやB−Aゲージも電離真空計の一種で、高真空から超高真空領域の圧力を正確に(注3)測定する真空計として多用されています。

質量分析計 (mass analyzer)

 電離真空計と構造は似ていますが、特定の質量/電荷比を持ったイオンのみ検出することによって、分圧、つまり気体の組成を知ることができます。真空中に残留している気体の分圧を測定することから、残留ガス分析計 (RGA - residual gass analyzer) とも呼ばれます。また、特定の質量/電荷比を持つイオンを選択する機構に四つの電極を用いる分析計は、四重極質量分析計 (QMA - quadrupole mass analyzer) と言います。特定の気体のみ検知したい場合には不可欠な分析計で、用途が特殊なことから、「真空計」には分類されないこともあります。

(注1) これは開管式であり、気圧の変動を受ける。このため、絶対値測定には片方の端を 1 Pa 以下に排気して封じた閉管式が用いられる。閉管式では、非測定系の絶対圧力がそのまま水銀柱として表示される(開管式では大気圧との差である)。  (注2) おおよその値を知りたい場合に用いる簡便な計器をモニタと表現した。 (注3) 校正されていない場合、絶対値はあまり信用しない方がよいが、相対的な比較においては精度がある。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。