「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

3−3 隔膜真空計

1998.11.18

keywords: diaphram gauge, capacitance manometer


 差圧の力で薄い金属板を弾性変形させ、その変位から圧力を測定する全圧計です。弾性変形を利用する点ではブルドン管と同じですが、圧力測定範囲が広く、電気信号も容易に取り出すことができることから、水銀マノメータの替わりに用いられます。また、高感度のものはピラニー真空計と同程度がそれ以上の範囲の圧力を測定することもできます。

キャパシタンスマノメータ

 変位を静電容量として検知する隔膜真空計はキャパシタンスマノメータと呼ばれており、隔膜真空計の代名詞になっています。右下図に示すように、測定子の内部は隔膜を挟んで2つの部屋があり、一方(左側)は真空槽に接続します。もう一つ(右側)は基準となる圧力なら何でもよく、大気に開放する(P1 = 0.1MPa)か、充分よい真空(P1 = 0)に保ちます。P2< P1 であれば、隔膜は図のように左側に変形して膨らみ、逆の場合には右側に膨らみます。このように、絶縁された電極と隔膜との距離はP2によって変わりますので、この間の静電容量も変わります。容量から距離、つまり隔膜の変位を求め、圧力に換算するのがキャパシンタンスマノメータの基本的な原理です。

零位法

 P2と P1 の圧力差が小さい場合、変位も小さくなります。従って、より低圧まで測定するためには、膜の厚みを薄くしなければなりません。しかし、膜厚が薄いと、圧力差が大きい場合に力が加わり過ぎて、膜が塑性変形してしまうか、最悪の場合には破断するかもしれません。通常は、膜がそれ以上変形しないように、両側にガードを配置している(電極が兼ねていることもある)そうですが、それでも弾性限度内で使用するとなると、測定できる圧力範囲が狭くなります(詳しくは後述します)。そこで、電極と隔膜との間に直流電圧を印加し、静電的な力によって変位を常に0となるように制御します(零位法)。この場合は、圧力は印加した電圧から求められます。市販の隔膜真空計(キャパシタンスマノメータ)はこの零位法を用いています。

精度の向上

 測定精度をよくするためには、隔膜の温度を一定に保たなければなりません。温度が上がると金属の体積が僅かに膨張し、膜が変形するからです。このため、測定子全体が恒温槽に入っている市販品があります。温度が安定するまでに時間がかかり、測定部がかなり大きくなり、高価になるなどの欠点がありますが、高精度の測定ができます。

 静電容量を正確に測定することも重要ですので、電極を2つ配置して、静電容量のブリッジ回路を組むことが多いようです。この場合、隔膜を挟んで対称の位置に電極を配置すると、変位が0になったときにそれぞれの静電容量が等しくなりますので、回路は単純になります。真空系(図では左側)に腐食性のガスを導入する場合には、右側に同心円状に2つの電極を配置した構造のものが用いられるそうですが、この点については寡聞にして詳細は知りません。

特徴と用途

 特徴については、上に述べたとおりです。大気圧から 10 mPa (0.1 mTorr) 程度の全圧測定に広く用いることができます。ただし、1つの測定子が測定できる圧力範囲は3桁程度ですから、場合によっては複数の測定子を組み合わせる必要があります。恒温槽に測定子が収められている隔膜真空計の絶対精度は数2〜3%程度と推測されていますので[3]、絶対圧力を精度良く測定することもできます。

 恒温槽に入っていない隔膜真空計では、圧力が有効数字2桁でデジタル表示されるものがあります。温度の変動を考慮すると、2桁の有効性しか無いためだと思われます。しかし、使う側としては、もう1桁欲しいところですので、私は測定器内部から直接電圧信号を取り出してデジタルボルトメータに表示させています。室温が変化しないと思われる短い時間内の、相対的な圧力変動を捉えることが目的ですので、今のところは特に問題ないようです(注1)。

接続方法

 市販品によって測定子の先端(継手)は異なりますが、通常は複数の継手(ゲージポート用やクランプ継手など)を選択することができますし、コンフラットフランジを溶接してもらうことも可能ですから、カタログを調べたり、メーカーに問い合わせたりすればよいでしょう。

単純な隔膜真空計の試作

 右図のように半径が a で厚みが h の円形隔膜がその端を固定され、上から一様な圧力 P を受けている場合、変位(たわみ)の最大となる位置は円の中心で、その値 w は、

 w = 3Pa4(1−ν2)/16Eh3   (1)

と表されます(注2)。ここにνと E は隔膜のポアソン比と縦弾性係数です。一例として、h = 0.1 mm、a = 21 mm のニッケルを隔膜として用いた場合を考えます。ν = 0.3、E = 200 GPa ですから、P = 1 kPa のとき、w = 0.17 mm となります。この程度の変位であれば、マイクロメータで測定することが可能ですので、写真1に示すような隔膜真空計を製作し、一時期使用していたことがありました。70のコンフラットフランジに円形に切ったニッケル薄板をガスケットを介して取り付け、円の中心にマイクロメータを固定しただけのものです。

 この真空計は安価ですが、様々な問題があります。マイクロメータの探針によって余分な力が加わること、圧力差が大きいと隔膜が塑性変形するため、排気する度に変位(マイクロメータの指示値)が異なること、(1)式の成り立つ範囲が極めて狭い(膜厚の半分まで)ことなどです。実験研究の都合で 1 kPa 程度の圧力変動をモニタする必要に迫られたため、これらの問題を承知の上で、手許の部品を組み合わせて急造しました。その後、直ぐにキャパシタンスマノメータを購入しましたので、今は使用していませんし、マイクロメータの指示値も信用しませんでしたが、好適な実験条件を見つける程度には役に立ちました(注3)。

(注1) 改造であるから、測定器が故障してもメーカーの保証対象外になることを承知の上で使用している。 (注2) 「機械工学便覧 第4版」日本機械学会 (1960) 4-p54.  (注3) 写真1はこのページのために、当時使用していた部品をかき集め、再現して撮影したものである。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。