「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

A−9 いろいろな形状のコンダクタンス

1999.03.31
2001.12.13 rev.1

keywords: conductance, orifice, molecular flow


概要

 オリフィス、短い円形直管、矩形断面の直管、曲がった管などの、分子流領域におけるコンダクタンスについて説明します。粘性流領域や中間領域については省略します。なお、単純な円形直管については前ページを参照して下さい。(rev.1)詳細には立ち入っていませんが、コンダクタンスの理論をこちらに追加しました。

オリフィス

 オリフィスとは、右図に示すように、流路中に設けられた絞りです。通常の排気経路には無いと思いますが、ガスを真空槽に導入する場合や、実効排気速度を意図的に小さくした場合などに用いられることがあります。このオリフィスのコンダクタンスは、理論的に容易に導くことができます(注1)。なお、右図ではオリフィスは円形ですが、以下の説明は矩形でもその他の形状でも当てはまります。

 面積が A のオリフィスを境界として、左側の圧力を p1、右側の圧力を p2 (p1 > p2) とします。オリフィスを通って単位時間に左側から右側に流れる分子の数は、気体分子の面積 A に対する入射頻度に等しいので、An1/4 と表されます。ここで n1 は圧力 p1 における分子の密度です。この入射頻度を n1 で割れば体積流量となり、更に圧力 p1 を乗じれば質量流量(体積の流れ×圧力) Q1 になりますから、

 Q1 = Ap1/4  (1)

となります。同様に、右側から左側に流れる流量 Q2 は Ap2/4 なので、正味の流量 Q (= Q1 - Q2) は、Ap1/4 - Ap2/4 = A/4×(p1 - p2) と表されます。従って、コンダクタンス C と流量 Q との関係式

 Q = C(p1 - p2) = C・Δp  (2)

と比較することにより、

 C = A/4  (3)

が得られます。この式は理想的な真空ポンプの排気速度((5)式)と同じです。つまり、理想的な真空ポンプとは、p2 が常に 0 であるオリフィスだと考えることもできます。

 分子の平均速さ は (8kT/πm)1/2なので、常温(20゚C)で分子量Mの気体および空気(M = 29)の場合、(3)式はそれぞれ次のように書くことができます。

 C = 623A/√M  [m3/s]  (4)

 C = 116A  [m3/s]   (5)

ただし、A の単位は m2です。A を cm2 で表すと、(5)式は次のようになります。

 C = 11.6A [L/s]   (5)'

短い円形直管

 円形断面のコンダクタンスについて今までの結果を簡単に復習すると、充分長い(直径 D や半径 a よりも長さ L が充分大きい)円形直管では、A−8(9)式に記したように、

 Cp = (2πa3/3)/L  (6)

であり、オリフィス(直径 D や半径 a よりも厚み L が充分小さい)では、断面が円形の場合、(3)式より

 Co = πa2/4  (7)

で与えられます。これらの中間に相当する短い円形直管(直径 D や半径 a が長さ L と同程度)の場合には、充分長い円形直管の一方の端が、同じ直径のオリフィスに置き換わったと近似的に考えることができ[6]、コンダクタンスは Cp と Co直列合成となります。

 C = (2πa3/3)/(L+8a/3) = Cp/(1 + 8a/3L)  (8)

(6)式と(8)式を比べると、短い管では、長さ L を L+8a/3 に置き換えればよいことがわかります。20゚Cの空気では、A−8(11)式より、

 C = a3/(L+8a/3)  [L/s]  (9)

となります。ただし、a と L の単位は mm です。単位の L は liter を意味しますので、長さの記号 L と混同しないようにして下さい。

 (8)式は、長い管(a << L) の場合は(6)式に一致し、オリフィス(a >> L) の場合は(7)式に一致します。従って、円形導管である限り(8)式、または(9)式を常に適用することができ、便利です(注2)。

 (8)式または(9)式を用いて求めた配管個々のコンダクタンスを、配管を組み上げた場合にはそのまま適用できない場合があることに注意しなければなりません。例えば、半径 15mm、長さ 60mm の円形導管のコンダクタンスは、(9)式によると 34 L/s ですが、この配管を2本直列に接続すると、合成コンダクタンスとしての値 (17 L/s)を用いずに、半径 15mm、長さ 120mm の円形導管として計算し直す必要があります(21 L/s になります)。ただし、精度を厳しく問わない場合には、直列接続の合成コンダクタンスを用いても構いません。

断面が一様な長い導管

 断面積を A、断面の周長を B、導管の長さを L とすると、

 C = 4KA2/3BL  (10)

と表されます[1]。ここで、K は補正係数です。例えば半径 a の円形導管では、K = 1 であり、A = πa2、B = 2πa より、(10)式は(6)式も含んでいることが判ります。20゚C の空気の場合には、(10)式は

 C = 2KA2/πBL  [L/s]  (11)

と書き直すことができます。ただし、A の単位は mm2、B および L の単位は mm です。

 補正係数 K は形状に依存します。同心円筒導管や矩形管の場合には、以下の項を参照してください。

同心円筒導管

 右図のように、半径 a の円形導管の中に半径 b の棒が入っており、その間を気体が流れる場合、(10)式において A = π(a2 - b2)、B = 2π(a + b) を代入すると、

 C = 2Kπ(a - b)2(a + b)/3L  (12)

となります。また、20゚Cの空気では a、b および L を mm 単位で表すと、

 C = K(a - b)2(a + b)/L  [L/s]  (13)

となります。K の値は b/a に依存しますが、b/a = 0.5 のとき K = 1.15、b/a = 0.71 のとき K = 1.25 [1] なので、a と b があまり近い値で無い限り、K = 1 として概算することができます。

矩形管

 右図のような、断面が矩形(辺の長さは a と b)で、長さが L の管の場合、A = ab、B = 2(a + b) を(10)式に代入し、

 C = 2Ka22/3(a + b)L  (14)

を得ます。また、20゚Cの空気では a、b および L を mm 単位で表すと、

 C = Ka22/π(a + b)L  [L/s]  (15)

となります。補正係数 K は b/a に依存し、 b/a = 1(正方形) では K = 1.11、b/a = 0.5 では K = 1.15、b/a = 0.2 では K = 1.30 です[1]から、あまり扁平な管で無い限り、K = 1 として概算することができます。(rev.1) b/a が非常に小さいときの補正係数については、このページの付録に示しています。

ラッパ管

 右図のような、片方の半径が a でもう片方の半径が b の管(ラッパ管)の場合には、(6)式中の a3 を 2a22/(a + b) で置き換えます[7]。補正係数は不要です。

屈曲円管

 右図(a)のように、半径が a の円形導管が直角に接続され、中心線の長さがそれぞれ x と y の場合には、L = x + y として、(6)式または(8)式を用います。また、図(b)のように滑らかに曲がっている管の場合には、中心線の長さ L をそのまま(6)式または(8)式に適用します。

 直角で無い管(45゜エルボなど)についても同様に考えるとよいと思います。

バルブ

 バルブは大別するとL型、S型およびストレート型があります。ストレート型の場合には、短管と考えて(8)式または(9)式を用いることができます。ただし、実際の排気系では両側に導管を接続するでしょうから、これらの長さも考慮してコンダクタンスを計算する必要があります。

 L型バルブの場合、メーカーがカタログ等にコンダクタンスを記載していれば、その数値を用いるべきですが、記載していない場合、上記の屈曲円管と考えて計算すれば容易に求めることができます。下の表はカタログに記載されたコンダクタンス C と、屈曲円管として求めたコンダクタンス C' を比較したものですが、少数の例外(甲社A型)を除いては、C と C' は大体一致しています。甲社A型は屈曲部の流路が狭くなっていると思われます。

 表中、バルブの呼称は便宜上の名称で、NWはクランプ継手を、ISはISO真空フランジを、CFはコンフラットフランジを表しています。L はカタログ記載値ですが、a はバルブ接続部の鋼管から推測した、標準的な内半径であり、実際の値とは異なっている可能性があります。また、バルブ本体の内半径も a であるとは限りません。カタログの写真によると、甲社C型ではバルブ本体の内径は鋼管よりも大きく、乙社B型では同程度であるように見えます。C' の値は短管用の(9)式を用いず、長い円管用のA−8(11)式を用いました。バルブは、前後に導管等が接続されることが多いためです。

バルブ  接続   L(mm) a(mm) C(L/s)  C'(L/s) C/C' 
---------------------------------------------------
甲社A型 NW16    80.26   7.9     2.2    6.1   0.36
甲社A型 NW25   100.6   11       3.5   13     0.27
甲社B型 NW16    76      7.9     8      6.5   1.2
甲社B型 NW25   104     11      13     13     1.0
甲社B型 NW40   130     17.4    46     41     1.1
甲社C型 IS63   210     30.1   175    130     1.3
甲社C型 IS100  270     49.2   460    440     1.0
甲社C型 IS160  334     74    1050   1210     0.87
乙社A型 CF70   124     17.5    30     43     0.70
乙社B型 CF70   125     17.5    29     43     0.67
乙社B型 CF114  200     30.1    94    140     0.67
乙社B型 CF152  280     47.8   285    390     0.73
乙社C型 CF152  267.7   47.8   300    410     0.73
乙社C型 CF203  350.8   74     800   1160     0.69
---------------------------------------------------

 S型バルブについては実例が少ないため、上表のような比較ができませんでした。目安としては、接続口(フランジ)の面間距離を 2.3 倍した値を L として計算するとよいそうです[7]。

(注1)  以下の説明は、流路の直径よりもオリフィスの直径が充分小さいことを前提としている。従って、両者に差があまり無い場合には、(3)式は成り立たないので注意すること。ただし、両者の比が2程度以上であれば、(3)式を用いても実用上は差し支えない。 (注2)  (8)式は近似式であるが、精度良く計算した値とはたかだか12%しか異ならない[6]ことから、実用上は十分である。

以上

(rev.1) 図中の記号を本文と対応させ(大文字のPと小文字のp)、本文を若干修正した。また、Kについての質問があったので、コンダクタンスの理論的な取扱をこのページの付録として追加した。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。