「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

A−1 気体分子の速さ

1998.10.24

keywords: speed of molecules, kinetic theory of gases, Maxwell's distribution


概要

 気体分子運動論の基礎である、分子の速さの分布、速度分布、平均速度等について説明します。

Maxwell の速度分布

 古典的に取り扱ってよい理想気体が、温度 T で熱平衡状態にあり、重力のような外力は無視できるものとします。気体分子が単原子である場合、分子のエネルギー ε は運動(並進)エネルギーだけですから、分子の質量を m、速度を (注1)とすると、ε = m2/2 です。マクスウェル−ボルツマンの分布則によれば、速度空間 d3 に分子が見いだされる確率は、kをボルツマン定数とすると、

g()d3 = C exp(−ε/kT) d3v = C exp(−m2/2kT) d3    (1)

と表されます。これが、マクスウェルの速度分布です。定数Cは、(1)式の両辺を全ての速度成分について積分すると(注2)、1になることから求められ、

C = (m/2πkT)3/2       (2)

となります。x方向の速度成分に注目すると、(1)式は、

g(vx)dvx = C' exp(−mvx2/2kT) dvx   (3)

と書くことができます。ここに、

C' = (m/2πkT)1/2       (4)

です。(3)式からわかるように、x方向の速度成分は0を中心に対称に分布していることから、平均値 x (注3)は 0 になります。もちろん、他( y と z )の速度成分についても同様です。

Maxwell の速さの分布

 速度というベクトルでは無く、速さというスカラーで考えますと、速さが v と v+dv の間にある確率、つまり速さの分布関数 f(v)dv は、(1)式の右辺を v 〜 v+dv の範囲にわたって、 |v| について積分することによって得られます。これは、速度空間において、半径が v 、厚みが dv の球殻内にある全ての速度(ベクトル)について積分することですから、 ∫d3→ 4πv2dv となり、

f(v)dv = 4πC v2exp(−mv2/2kT) dv    (5)

が得られます。ここに、Cは(2)式で与えられています。(5)式もマクスウェルの速度分布と呼ばれることがありますので、速さと速度の違いに注意する必要があります。

最確速さvm

 (5)式で与えられる分布関数は、ある速さで極大値となり、この速さを最確速さ vmといいます。極値の条件 ∂f(v)/∂v = 0 から、

m = (2kT/m)1/2       (6)

であることが導かれ、分子量をMとすると (6)式は vm = 129(T/M)1/2 (m/s) と書くことができます。

平均速さ

 平均速さは、分布関数を重みとして v を積分することによって得られます。つまり、 = ∫f(v)vdv (積分範囲は 0〜∞)より(注4)、

= (8kT/πm)1/2      (7)

となります。分子量をMとすると、(7)式は = 146(T/M)1/2 (m/s) と書くことができます。 

2乗平均速さ

 速さの2乗の平均 2 は、上と同様に、分布関数を重みとして、v2 を積分することによって得られます。つまり、2 = ∫f(v)v2dv (積分範囲は 0〜∞)より(注5)、

2 = 3kT/m     (8)

となります。速さを v とすると、運動エネルギーは mv2/2 と表されることと、等分配則より1自由度当たりの運動エネルギーの平均値は kT/2 であること、および(並進)運動の自由度は3であることからも(8)式を導くことができます。つまり、2乗平均速さは運動エネルギーと直接結びつけられる量です。

使い分け

 具体的な値を概算する場合には、(6)式〜(8)式のいずれを用いてもそれほどの違いはありません。vm の 0.89 倍で、(2)1/2 の 1.09 倍です。

 しかし、最確速さ、平均速さ、2乗平均速さ(の平方根)はそれぞれ異なった意味を持ちますので、考え方を明らかにする場合には、使い分けるべきでしょう。平均自由行程や分子のフラックスなど、輸送現象を扱う場合には平均速さを、エネルギーや圧力の場合には2乗平均速さを用います。

(注1)太字はベクトルを表すものとする。速度はベクトルで速さはスカラーである。 (注2)d3= dvxdvydvz であるから、∫exp(−mv2/kT)dv を3乗すればよい。積分範囲は −∞〜∞である。また、∫exp(−ax2)dx = (π/a)1/2 (注3)上に棒を引くのが通例であるが、html では表しにくく、やむを得ず下線にした。 (注4)この積分は比較的簡単に実行できる。x2exp(−ax2) を微分してみよ。 (注5)少し面倒だが、∫exp(−ax2)dx = (π/a)1/2/2 (積分範囲は0〜+∞) の関係を使えばできる。x3exp(−ax2) を微分してみよ。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。