「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

A−10 コンダクタンスの合成と実効排気速度

1999.03.29

keywords: conductance, net speed, vacuum pump


概要

 複数の導管を直列あるいは並列に接続した場合の合成コンダクタンス(注1)や、ポンプと導管を接続した場合の実効(有効)排気速度の求め方について説明します。

並列接続

 右図に示すように、コンダクタンスがそれぞれ C1 と C2 である導管が並んで流路中に設けられている場合を考えます。それぞれの導管を流れる気体の流量を Q1、Q2 とすると、定義により、Q1 = C1(p1 - p2)、 Q2 = C2(p1 - p2)です。全流量 Q は Q1 + Q2 なので、

 Q = (C1 + C2)(p1 - p2)  (1)

となります。従って、合成コンダクタンス C は、C1 + C2 であることがわかります。

 導管を3本以上に増やしても同様なので、一般式は次のように表されます。

 C = C1 + C2 + C3 + … = ΣCi  (2)

直列接続

 右図に示すように、コンダクタンスがそれぞれ C1 と C2 である導管が直列に流路中に設けられている場合を考えます。それぞれの導管を流れる気体の流量 Q は等しいので、定義により、Q = C1(p1 - px) 、Q = C2(px - p2) が成り立ちます。ここに、 px は2つの管の接続部における圧力です。両式から px を消去して整理すると、

 Q = (1/C1 + 1/C2-1(p1 - p2)  (3)

となります。従って合成コンダクタンス C は、(1/C1 + 1/C2-1 であることがわかります。

 導管を3本以上に増やした場合でも同様に整理することができますので、一般式は次のようになります。

 1/C = 1/C1 + 1/C2 + 1/C3 + … = Σ1/Ci  (4)

実効排気速度

 真空ポンプの排気速度については、真空ポンプの原理のページで説明しましたが、その定義から、排気速度 S にポンプ入り口の圧力 p を乗じると、排気される気体の流量 Q が得られることがわかります。つまり、

 Q = Sp   (5)

となります。

 実際には右図で示すように、真空ポンプは導管などを介して真空槽に接続されるので、このような場合の排気速度(実効排気速度あるいは有効排気速度)を、導管の直列接続と同じようにして導いてみます。ここで、ポンプの排気速度を S、導管のコンダクタンスを C、導管の入口とポンプの入口(導管の出口)圧力を、それぞれ p1、 p2 とします。

 導管とポンプを一体と見なしたとき、つまり、導管の入口をポンプ入口と見なしたとき、(5)式と同様に考えると、実効排気速度 Se に p1 を乗じた値が流量 Q になるので、

 Q = Se1  (6)

が成り立ちます。また、導管を流れる気体の流量 Q はポンプが排気する気体の流量に等しいので、(5)式より Q = Sp2 が、コンダクタンスの定義より Q = C(p1 - p2) が成り立ちます。両式から p2 を消去して整理すると、

 Q = (1/C + 1/S)-11  (7)

が得られます。(6)式と(7)式より、

 1/Se = 1/C + 1/S  (8)

であることが直ちにわかります。

 (8)式は、排気速度 S のポンプには、S かそれ以上のコンダクタンス C を持つ導管を接続しないと、実効排気速度はかなり小さくなってしまい、折角のポンプの性能を有効に使うことができないことを意味しています。例えば C = S/2 では Se = S/3 になってしまいます。では、どの程度の口径の配管を接続すればよいのでしょうか。結論から先に述べると、真空ポンプの口径と同じ寸法の導管を接続しておけば良い、ということになります。以下では分子流と粘性流に分けて検討してみます。

 分子流領域で用いられるポンプの場合、ホー係数 H(A−6参照)を 0.3 と仮定すると、口径 5cm のポンプでは、S = 70 L/s (20゚C 空気)になります。一方、内径 5.6cm、長さ 15cm の導管(注2)のコンダクタンスは、A−9 (9)式より 98 L/s なので、実効排気速度は 41 L/s となります。あるいは、市販されている2インチ用真空バルブのコンダクタンスの一例(注3)は 95 L/s であり、上記の導管と同程度です。もし、必要とする実効排気速度が 63 L/s (排気速度の90%)であるとしたら、導管のコンダクタンスは 630 L/s 以上でなければならず、長さを 15cm としても内径は 11.5cm となり、配管がかなり大型になってしまいます。従って、分子流領域では実効排気速度がポンプの排気速度の半分程度になることを前提として排気系を考える必要があり、排気速度が不足であれば口径の一回り大きい(排気速度の大きい)ポンプを使用するべきでしょう。

 粘性流領域についても同様に検討します。最近の直結型油回転ポンプでは排気口がクランプ継手になっており、排気速度 200 L/min のポンプでは呼び径25が一般的です。ここで、内径 2.2cm、長さ 100cm の導管(注3)を接続し、導管入口圧力が 100 Pa(注4)に保たれている状態を考えます。コンダクタンスは平均圧力に比例するため、過小評価側に考えて導管出口(ポンプ入口)圧力を 0 とし、平均圧力 p を 50 Pa と仮定します。常温の空気の場合、コンダクタンスはA−8 (8)式で与えられ、 約 50 L/s です。この値はポンプの排気速度(200 L/min = 3.3 L/s)よりも充分大きく、実効排気速度はポンプの排気速度とほぼ同じになります。つまり、粘性流領域ではポンプの排気口と同じ規格の配管を接続すれば、実効排気速度が大幅に低下することはあまりありません。

(注1)  電気回路を少し知っているのであれば、コンデンサを並列接続あるいは直列接続した場合の合成キャパシタンスを求める計算式と同じだと覚えておけばよい。 (注2) このポンプの口金は呼び径50(2インチ)のJIS真空フランジなので、市販されている2インチ配管用ティーの寸法を例に採った。 (注3) 実際には呼び径63のISO真空フランジ用バルブの値であるが、内径は呼び径50のJIS真空フランジとほとんど同じである。 (注4) 実際にはフレキシブルホースを接続することが多いが、これを直管と見なすことにする。なお、2.2cm という値は呼び径25の配管内径の一例である。 (注5) 粘性流ではコンダクタンスは圧力に比例するため、あまり高い圧力を想定しても意味が無い。この値は中間領域に入らない程度の、低い圧力の代表値として想定した。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。