「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

4−2 JIS真空フランジ

1998.09.19
1998.11.04 rev.1
1999.04.08 rev.2

keywords: vacuum flange, JIS B2290


 このページを書くために調べてみて気づいたのですが、JIS が1998年4月20日に改正され、ここで説明しようとしている真空フランジは規定外となっていました。ただし、古巣(?)の JIS B2290-1998 には附属書表として掲載されていて、かろうじて JIS の中に生き残っています。

 ところで、このフランジを何と呼べばよいのでしょうか。本来なら、改正後のフランジをJIS真空フランジと呼ぶべきでしょうが、却って混乱するかもしれません。改正後のフランジは ISO1609-1986 と同一、つまり国際規格に合わしたものですから、これからは「ISO真空フランジ」と呼ばれ、旧来のフランジは今まで通り「JIS真空フランジ」と呼ばれるようになると思われます(注1)。

 JIS真空フランジは国内では通用しましたが国際的な規格では無かったため、今後はISO真空フランジに替わっていくでしょう。しかし、装置や配管を直ぐに取り替えることはできませんから、交替には暫く時間がかかると思います。ISOフランジはもう少し普及したらこのページに追加することとし、ここではJIS真空フランジ(のようなもの)について説明します。

JIS真空フランジ規格

 正式の規格についてはJIS B2290-1998 附属書表を参照して下さい。真空関係の技術書や教科書、国内メーカーのカタログ等に記載されています。以下に示す数値は、私たちの実験室で使用している真空フランジの寸法です。ボルト穴に接した溝のようなもの(附属書表中の g および f (*))は意図が分からないので省略してあることだけが異なっており、JIS真空フランジと完全に互換性があります。ただし、実験室規模の装置で用いないような大口径フランジは省略してあります。溝部の面取り(C1)は、糸面取りでも構いません。

(*)この部分につきまして、コメントをいただきました。こちらにあります。

呼び 鋼管 呼び 鋼管外径d 外径 D 厚み T 中心円P 穴数 n 穴径 h ボルト 溝内径Gi 溝外径Go 溝深 S 適用Oリング
10 3/8 17.3 70 8 50 4 10 M8 24 34 3 V24
20 3/4 27.2 80 8 60 4 10 M8 34 44 3 V34
25 1 34.0 90 8 70 4 10 M8 40 50 3 V40
40 1 1/2 48.6 105 10 85 4 10 M8 55 65 3 V55
50 2 60.5 120 10 100 4 10 M8 70 80 3 V70
65 2 1/2 76.3 145 10 120 4 12 M10 85 95 3 V85
80 3 89.1 160 12 135 4 12 M10 100 110 3 V100
100 4 114.3 185 12 160 8 12 M10 120 130 3 V120
125 5 139.8 210 12 185 8 12 M10 150 160 3 V150
150 6 165.2 235 12 210 8 12 M10 175 185 3 V175
200 8 216.3 300 16 270 8 15 M12 225 241 4.5 V225
250 10 267.4 350 16 320 12 15 M12 275 291 4.5 V275
300 12 318.5 400 16 370 12 15 M12 325 341 4.5 V325

フランジの呼称

 日常では、呼びが65のフランジを、「2インチのフランジ」などと言います。この2インチというのは、適合する鋼管の呼びですから、「2インチ用のフランジ」という意味です。ただ、2インチ(= 50.8 mm)の鋼管外径は上の表によると 60.5 mm であり、実寸法と異なっています。この不一致は上表だけでは無く、SUS管も含めた鋼管全般について見られます。

 JIS G3459-1973 の解説によると、不一致の理由は、様々な寸法体系のあった配管用鋼管の標準寸法を定める際に、米国で1939年に制定された ASA B 36.10 (American Standard for Wrought Steel and Wrought Iron Pipe) を基準とし、更に実状を考慮した結果とのことです(ASA は現在では ANSI)。(rev.2)これにより鋼管は呼び径と呼び厚さ(スケジュール番号 Sch)で呼ばれるようになりました。上表では呼び径が「呼び」(記号A)または「鋼管呼び」(記号B)に相当しており、50A Sch10S 等と表されます。上表によると呼び径の 50A は外径 60.5 mm の鋼管のことで、呼び径 2B と同じです(JIS G3459:1997)。

(rev.2注記) この部分の記載は間違っていましたので訂正しました。お詫び致しますと共にご指摘いただいた方に感謝致します。

 JIS制定の経緯はこれで大体判りましたが、何故2インチが 60.5 mm なのかは不明なままです。私の勝手な推測では、中を流れる流体の流量計算に便利なように、古くは内径で表されていたものが呼称として定着したのではないかと思っています。昔の鋼管はぶ厚かったでしょうから、肉厚が5 mm 程度なら寸法は合うことになります。ただ、12Bを超える鋼管の外径は、呼び径と実際の外径が一致していますので、それでも疑問は残ったままです。どなたかご存じの方がありましたら教えて下さい。

フランジ等の材質

 特別の理由が無い限り、フランジと鋼管にはステンレス鋼(SUS304)を使用します。吸着ガスの放出量が少なく、加工性や溶接性も良好で、耐食性にも優れる(中は真空であっても外は水を含んだ空気)からです。また、締め付けるためのボルト、ナット、座金類もステンレス鋼製のものがよいでしょう。ただし、表面が平滑な材料なら何でも利用できることから、右の写真のように、アクリル板を覗き窓として用いるようなこともできます。

 フランジ面をシールするガスケットには、表中の最右欄に示すOリングを用います。材質については、耐食性、耐熱性、低ガス放出性等の点から、ネオプレンゴムよりバイトンゴムの方が優れています。

特徴と使用箇所

 JIS真空フランジは、大気圧から10μPa 程度までの高真空領域で使用することができ、油拡散ポンプを用いた排気系に多用されています。大口径のものも製作できることや、接続部分のフランジに相当な強度があることから、私共の実験室では、高真空用の真空槽、ビーム輸送用の長いダクトなどに使用されています。

 JIS真空フランジを超高真空用のコンフラットフランジと比較しますと、その利点はガスケット(Oリング)が繰り返し使用できることと、金属以外の材料でもフランジ材として使用できることです。また、Oリング用の溝の深さが適切であれば、ボルトを順番に締め付けなくても充分シールすることができますので組立も簡単です。一方、欠点は、雌雄の別(VF型とVG型を一対で使用しなければならない)があること、Oリングの耐熱性が100゚C を少し超える程度なので高温のベーキングができないこと、Oリングからのガス放出のために超高真空に向かないことです。特に雌雄の別は厄介な問題を起こし、両面が平滑な円板や、両面にOリング溝のあるフランジを作らざるを得ないことが多々あります。

注意すること 

 Oリングやシール面には真空グリスを塗らない方がよいでしょう。シール面が平滑であれば、十分な気密性を有しており、グリスは却ってガス放出による真空度の悪化の原因になるからです。ゴミは大敵ですので、Oリングやシール面は、装着する前にエチルアルコールで拭いておきましょう。

 VF型はシール面が露出していますので、傷が付くことがあります。VG型のシール面は溝の底ですからあまりありません。僅かのスリークでしたらそのまま使用することも可能ですが、漏れるようであれば、やむを得ずその箇所だけ真空グリスを薄く塗布することも有効です。それでもダメなら、傷の部分を周囲も含めて目の粗いペーパで擦り、順番に目の細かいペーパで仕上げます。見た目に光沢が無くても、真空グリスと併用すると意外とシールできるものです。あるいは可能であれば旋盤で新たな面を出してもよいでしょう。ここまで努力してだめなら諦めるしかありません。

(注1) 随分以前にメートルねじの規格が改正され、M3ねじのピッチは 0.6 mm から0.5 mm に、M4ねじでは 0.75 mm から 0.7 mm に、M5ねじでは 0.9 mm から 0.8 mm になった。規格が改正されても実際に使用されているねじを取り替えるわけでは無いから、古い機械を使用している場所では今も若干の混乱が続いている。改正後、つまり現行のねじがJISねじであるのだが、この改正はISOに準拠していたため、ISOねじと呼ばれている(ローカルな話しかもしれないことを了承していただきたい)。改正前のねじはJISと呼ばれ、「これはJISねじやから合わへん」などという、ちょっと妙な会話が成り立っている。真空フランジもこのようになるのだろうか。 (注2) 30年程前は断面が角形のゴム製ガスケットが用いられていた。古い真空装置を分解すると見つかり、感動することがたまにある。シール性はOリングより劣るので、用いない方がよい。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。