「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

4−3 コンフラットフランジ

1998.10.24

keywords: ConFlat Flange, Varian, UHV, bakable, knife-edged shape


 コンフラットフランジ(ConFlat Flange) は、内側に先の尖ったエッジが付いており、通常は銅製のガスケットを挟んで塑性変形させることによってシールする、全金属製の継手です。JISフランジやISOフランジと同程度の口径の配管で、超高真空領域まで対応できる継手として、最もよく使用されています。「コンフラット」は Varian社の商品名ですが、現在では一般名称のように用いられています。

規格と材質

 下表に ConFlat フランジ (Varian) の規格[C1]の一部を抜粋して示します。但し適用管外径は一般的な値を、ガスケットは ULVAC社の製品規格を、呼びは通常の呼称を、それぞれ表しています。表に示した以外では、54.0、85.7、117.5、171.5、336.6 のフランジがありますし、互換製品では更に径の大きいフランジがありますが、少なくとも国内ではあまり一般的ではありません。

 フランジを分類すると固定型と回転型、ボルト穴型とタップ型の2つずつがあり、合計4種類になります。固定型はフランジ全体が一体になっており、回転型は管を接続し、ガスケットを挟み込む部分とボルトで固定する部分が分かれています。ボルト穴型は、ボルトをナットで固定するための、いわゆるバカ穴があけてあり、タップ型は雌ねじが切ってあって、ナットが不要です。当たり前ですが、タップ型とタップ型のフランジを対にして使うことはできません。また、管を接続するため穴が開けてある型(写真1右側)とブラインド型(写真1左側)の区別もありますから、メーカーのカタログをよく見て注文しなければなりません。例えば写真2は、固定−タップ−穴開きのフランジです。

呼び 外径 ピッチ  円径  ボルト穴 数 - 径 厚み 適用管 外径  ガスケット外径×内径
34 33.8 26.9 6 - 4.4 7.1 18.0 21.3x16.3
70 69.9 58.7 6 - 6.7 12.7 38.1 48.1x36.9
114 114.3 92.2 8 - 8.4 17.3 63.5 82.4x63.7
152 152.4 130.3 16 - 8.4 19.8 101.6 120.5x101.8
203 203.2 181.1 20 - 8.4 22.4 152.4 171.2x152.6
254 254.0 231.9 24 - 8.4 24.6 203.2 222.1x203.4
304 304.8 284.0 32 - 8.4 25.9 254.0 273.0x258.0

 いくつかのメーカーでは、コンフラットフランジと互換性のあるフランジを製作してます。ピッチ円の直径とボルト穴数はどこの製品でも同じですが、フランジ外径や厚み、ボルト穴径は下表に示すように、微妙に異なっています。しかし、この差が問題になることはほとんど無いでしょう。なお、コンフラットフランジの同等品を製作しているメーカーはこの他にもあり、下表は一例です。材質はどの製品も SUS304 です。

 メーカー  外径 ボルト穴径  厚み
 Varian  33.8  4.4  7.1
 ANELVA  34.0  4.5  7.5
 ULVAC  33.8  4.4  7.2
 Huntington  33.8  4.3  7.4
 MDC  33.8  4.4  7.2

 使用するボルトの材質は問われませんが、ステンレス鋼製を薦めます。34のフランジにはM4を、70のフランジにはM6を、114以上のフランジにはM8のボルト・ナットを使用します。米国製の大型フランジでは 3/8"ネジ用に 9.9mm のボルト穴があけられているものがありますが、M8を使用しても特に問題は無いようです。ただし、米国製のタップ型フランジを使う場合には、インチ規格かメートル規格かを確認しましょう。34のフランジでは 8-32が、70のフランジでは 1/4-28が、114以上のフランジでは 5/16-24が用いられます。また、304を超える大型フランジでは、3/8-24 が一般的のようです。

 適用(接続)する管の材質は、フランジに合わせて、通常は SUS304 を使います。表に示した適用管外径より大きい径の管を接続することは可能ですが、六角ボルトやナットの頭が当たったりしますので、タップ型のフランジや、六角穴付きボルトを使用するなどの工夫が必要になります。

 ガスケットは厚さ 2mm の銅が一般的です。特殊なものとしては、銅に銀をメッキしたガスケットや、ゴム製の角パッキン、ゴム製や金属製のOリング(エッジ外側のテーパー部か内側の平面部をシール)があります。

特徴

 JIS真空フランジと比較しますと、適用可能な管口径はほぼ同じですが、超高真空領域まで使用できることと、フランジに雌雄の別が無いことが利点です。また、銅ガスケットを用いるとフランジとシール部分が全て金属で構成されるため、高温のベーキングに耐えます。欠点はフランジとガスケットの価格が高いことでしょう。34と70のフランジはそれほどでもありませんが、114以上のフランジになると急に割高になります。ガスケットも同様で、しかも塑性変形するために(平たく言うとエッジの当たった所に筋が付くために)、何度も使用することは困難です。

 これらの特徴から、超高真空が必要な排気系や真空槽に用いられます。高真空で構わないような系の場合には高級な仕様になってしまいます。

フランジと鋼管の接続

 鋼管とフランジはTIG溶接します。超高真空で使用する場合には、溶接時のスケールを除去した方がよいのですが、詳細な方法は知りません。私は希塩酸か希硝酸で軽く拭き、その後水洗していますが、スケールを完全に除去するのは難しいようです。スケールが気になるようでしたら、真空装置を専門に製作しているメーカーに依頼した方がよいでしょう。

フランジ径の変換

 例えば片面が114で、もう片面が70の変換フランジが市販されていますから、これを利用するのが最も手軽です。この変換フランジと市販されている各種のニップルやティー、ベローズなどの継手を利用すると、排気系を構成するのに不自由は無いでしょう。

他のフランジとの接続

 クランプ継手JIS真空フランジは高真空用ですから、超高真空用のコンフラットフランジと接続することは無いはずですが、実際にはやむを得ない状況がよく発生します。このような場合には、異種フランジを鋼管で接続したニップルを内作するか外注するしかありません。

フランジの製作

 肝心のエッジ部分の詳細は公表されていないことと、いくら割高と言っても、製作にかける時間を考えると市販品の方が安価なことから、特別な理由がない限りフランジを自作することにメリットはありません。

フランジの取付

 ガスケットを塑性変形させるため、均一にボルトを締めていくことが重要です。もし、ある箇所のボルトを最初に締めすぎると、対角の位置にある部分が浮いてしまい、漏れることがあります。このため、先ずは指で均等にボルトを締めていき、次にトルクレンチで右図のようにできるだけ対角の位置が交互になるように軽く締め、最後にトルクを少し増やして、もう一度同じ順番で締めます。締付けトルクの目安はM4ボルトで 20 kgf・cm、M6ボルトで 70 kgf・cm、M8ボルトで 100 kgf・cm前後ですが、適切な値を自分なりに見つけておきましょう。

ガスケットの再利用

 一度使用したガスケットは筋が付いていますから、再度使用することは望ましくありませんが、注意深くボルトを締め付けていれば、筋は浅いため、数回は繰り返し使用することができます。ただし、メーカーは推奨していませんし、繰り返し仕様によって漏れが生じれば時間が無駄になることを承知の上で使用しましょう。なお、うまく締め付けると 0.05 mm の筋深さでシール可能だそうです。

ベーキング温度

 250 ゚C でのベーキングに耐えますが、ボルトを少しきつく締めておく必要があります。銅ガスケットで大気にさらされている部分はかなり酸化されてしまいますし、ガスケットが取り外し難くなりますから(注1)、250 ゚C 程度までにした方がよいでしょう。

エッジの傷

 シール部であるエッジに傷が付くと致命的です。原則としては交換するしかありませんが、コンフラットフランジ用のOリング(バイトン製や金属製)でシールする方法があります。金属製のOリングは1回しか使用できず、かなり高価です。

(注1) 酸化するためにガスケットが固着すると言われているが、私の経験ではフランジ全体を真空中で加熱しても固着したことから、拡散接合も一因ではないかと思う。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。