「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

4−4 クランプ継手

1998.09.19
2001.10.12 rev.1
2001.10.18 rev.2

keywords: JIS, B8365, ISO, 2861/1, quick release coupling, quick coupling


 クランプ継手は、もともとは Leybold社が30年以上前に開発したKFという名称の継手でしたが、「真空装置用クランプ形継手」として JIS B8365-1988 で制定されており、規格はISO 2861/1 (Vacuum Technology - Quick-release Couplings - Dimensions - Part 1: Clamped Type) に対応しています。現在では、Klamp Flange (Varian)、クランプ継手(大阪真空)、クイックカップリング(ANELVA)、KF type Speed Flange (Huntington)、ISO-KF(EVAC)などの名称で各社から販売されています。JISで制定されたのは比較的最近ですが、小配管やポンプ、バルブの接続によく用いられるようになってきました。特に、直結2段式の油回転ポンプの吸気口はほどんどがこの形式になっています。

 なお、この継手の一般名称は固定されていないようですが、クランプ継手とかクイックカップリングと言えば通用します。ここでは前者の呼称を用いることにします。

規格と材質

 クランプ継手が接続されている様子を右に示します。カップリングと呼ばれるフランジ付の管に雌雄の別が無く、ザグリ部にはまり込んだセンターリングが、カップリングどうしの位置を固定し、かつ、Oリングを保持する構造になっています。カップリングの外側はテーパが付いており、クランプで締め付けます。

 JISでは4種類定められており、従ってOリングもセンターリングも4種類です。ただし、クランプについては規定されておらず、メーカーに任されています。カップリングの呼び径と主要寸法を下表に示します。Oリングやセンターリングはもちろんのこと、カップリングも自作しないでしょうから、これらの寸法が判れば設計や判別に困ることは無いと思います。詳細が必要な場合には、JIS B8365 を参照して下さい(京都大学では附属図書館1階に全てのJISが揃っています)。

呼び径 フランジ部外径 (mm) 管部外径最大値 (mm)
 10  30  14
 16  30  20
 25  40  28
 40  55 44.5

 それぞれの部品の呼び方もJISで規定されています。例えば、呼び径40のカップリングなら「クランプ形継手カップリング40」です。部品を注文するときにこの呼称が通じない場合には、カタログに記載された型番とメーカーを指定するしかありません。なお、ISOでは上記4種類の他にもいくつけの呼び径のフランジが定められているようで(注1)、呼び径が32や50、63、80、100などのクランプ継手がいくつかのメーカーから販売されています(rev1.)

(rev.1) 規格についてコメントをいただきましたので、改訂しました。

(注1)ISO規格を直接参照していませんので曖昧な表現になりました。ご容赦下さい。また、上記JIS規格以外の呼び径のもの全てがで規定されているかどうかも未調査です。ご注意下さい。

特徴と使用上の注意

 Oリングでシールする構造になっているため、JIS真空フランジと比較してみます。使用可能な圧力領域は、大気圧から高真空領域までであることや、高温のベーキングには耐えないこと、Oリングは繰り返し使用できること等はJIS真空フランジと同じです。長所は、フランジ(カップリング)に雌雄の別が無いことと、接続や取り外しに工具が不要で短時間で済むことです。短所は、クランプを使用するためにカップリングの大きさは限られ、接続部の強度もやや劣ることです。もっとも、クランプ継手で長い配管を片持ちすることは無いでしょうから、実用上の強度は充分あると言えます。

 これらの特徴から、クランプ継手は、小口径の配管系−例えば粗引きライン−や各種測定子の取付ポートによく用いられてます。最初に述べたように、直結式油回転ポンプの吸気口やターボ分子ポンプの排気口は、現在市販されているものについてはほとんどがクランプ継手です。また、小型のバルブやニップル、エルボ、ティー、クロス、フレキシブル(ベローズ)管、径違いニップル、各種形状への変換継手など多種の市販品があり、組立に困ることはありません。

 ただし、真空ゴムホースに較べると、比較的高価です。1年程前のデータですが、呼び径が25の場合、Oリング+センターリング+クランプが\2,400、カップリングが\2,800、ティーが\15,000、長さ1mのフレキシブル管が\29,000 でした。自作するよりは安価でしょうが、いくつも部品を使用して組むと、結構な値段になってしまいます。

 また、クランプはJISやISOで規定されていないためか、メーカーによって形が異なります。半円環2個を蝶番で接続した物や、チェーン状の物などがあります。中には、粗悪なメッキのためにすぐに錆びてしまったり、カップリングをしっかり固定できずに空気が漏れたりするものがあり、私は、蝶ナットをペンチで回してやっと漏れを止めたことがあります。これでは、"Quick" とは呼べません。良くできた製品であれば容易に固定することができますので、信頼のあるメーカーから購入した方がよいでしょう。

 腐食ガスの吸排気など特殊な環境下での使用には、一部のメーカーから発売されているガラス製(硼珪酸ガラス、石英ガラス)の継手が便利かもしれません。私は使用経験がありませんので、どなたか利用されている方の情報をいただければと思います。

(rev.2) クランプ継手についていくつかの指摘をいただきましたので、該当個所を改訂しました。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。