「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

5−3(2) 硬質ポリ塩化ビニル(PVC)

1999.04.22
     04.24 rev.1

keywords: PVC, unplasticized polyvinyl chloride, pipe, Tygon, Nalgon


 硬質ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride; PVC)は、安価で軽量という利点があり、特に水道用の硬質ポリ塩化ビニル管(通称塩ビ管)は低真空〜中真空用の配管として用いると便利です。

PVCの性質

 塩化ビニルは CH2=CHCl という組成の単量体で、これを重合したものがポリ塩化ビニル(PVC)です。実際に使われるPVCには多量の可塑剤が含まれている軟質ポリ塩化ビニルと、可塑剤を全く含まないか僅かに含む硬質ポリ塩化ビニルがあり、両者を総称して塩化ビニル樹脂と言います。慣用的な塩化ビニル(塩ビ)という呼称は、塩化ビニル樹脂のことで、単量体ではありません。

 軟質PVCは、レインコートやシート、袋、導線の被覆材などいわゆるビニール製品に用いられ、柔軟性があります。一方、硬質PVCは名前の通り硬く、水道管や雨樋などの構造材として用いられます。軟質PVCは真空用としての用途が少ないため、以下では硬質PVCの特徴について述べます。

 比重約1.4g/cm3で比較的硬く、割れやすい性質があります。耐熱性は悪く、使用温度はせいぜい80゚Cです。濃度が高くない無機酸や無機アルカリには耐性があり、油にも侵され難くいという利点があります。ただし、アセトン等の有機溶剤には溶け、直射日光を避けた方が無難です。機械的な加工性は良く、容易に切断したり穴を開けたりすることができます。また、専用の接着剤を用いれば、簡単に接着することができます。

ガス放出量

 硬質PVCからのガス放出量はPTFEやポリスチロールに較べると数倍程度多いようです[1]。ガスの主成分は水ですが、可塑剤を含むPVCからは有機分子も放出されるため、軟質PVCは真空用の部品、例えばビニル被覆線、としても不向きです。低真空〜中真空内でビニル被覆線を使用することは、ガス放出量の点からは可能ですが、長時間使用すると可塑剤が抜けて硬化するかもしれません。

 あるデータによると[3]、PVCからのガス放出量 q は、0.1時間後で 5E-3 Pam3/sm2、 0.5時間頃までは時間の平方根に反比例して減少しますが、その後は時間に反比例して減少するようです。また、別のデータによると[1]、1時間後で q = 8E-4 Pam3/sm2 ですが、q の時間依存性はあまり単純では無いようです。ただし、中真空以上の圧力領域で使用している限り、放出ガスが問題になることは少ないと思いますので、これらのデータから概算すればよいでしょう。

素材の形状と規格(rev.1)

 水道配管としてよく見かける灰色や藍色のプラスチック管は、JISで規定されている硬質ポリ塩化ビニルです。安価で軽量なので、低真空〜中真空の粗引き配管に利用することができます。継手もJISで定められており、どちらも容易に入手することができます。規格の詳細については、付録C−4をご覧下さい。

 理化学機器を扱っている業者からは、透明管(内径9〜28mmまで)、灰色管(内径9〜148mm)、灰色丸棒(直径10〜150mm)、透明板(厚み1〜10mm)、灰色板(厚み1〜10mm)などを入手することができます。括弧内の数値は一例です。ただし、これらの素材を加工して真空中で用いるメリットはあまり無いように思われます。

 素材ではありませんが、タイゴン(Tygon: 米国 U.S.Stoneware Co. の商品名)やナルゴン(Nalgon; 米国 Nalge Co. Inc. の商品名)という軟質PVC製の透明チューブが市販されています。肉厚の真空用チューブは真空ゴムホースと同じように使うことができるそうですが、私は使用経験がありません。

管材の特徴と使用上の注意

 粗引き配管として真空ゴムホースと比較すると、安価で軽量である反面、柔軟性に劣ります。以下、これらと注意事項等について簡単に述べます。

[重量] VP25という内径25mm の管の重量は 0.45kg/m です。この管に相当する鋼管(20A)に適用する真空ゴムホースの内径と外径はそれぞれ、18mm と 42mm で、比重を1とすると 2.8kg/m です。断面積が約2倍あるのに重量が1/6 しかなく、真空ゴムホースよりもはるかに軽量です。

[価格] 上記のPVC管と真空ゴムホースの1m当たりのおおよそ価格は、それぞれ 200円 と 4000-5000円です(1999.4)。入手経路によってはPVC管の価格は2〜3倍になることがありますので、真空ゴムホースの 1/10 程度と考えておけばよいでしょう。

[柔軟性] PVC管はしなる程度には曲がりますが、真空ゴムホースほどの柔軟性はありません。このため、配管するには各種エルボやチーズなどの継手を併用する必要があります。

[継手との接続] 真空ゴムホースは、適当な外径の円管であれば差し込んで接続することができますが、次に述べるように、PVC管は接着剤で継手と接続します。従って、取り外すことは不可能で(注1)、系を組み替える場合には一から接着し直すか、途中から切断して継ぎ足さなければなりません。

[接着剤] PVC管と継手の接着には、「硬質塩化ビニル管用接着剤」などの名称で市販されている専用の接着剤を用います。一般的な接着剤とは違って母材(PVC)そのものを溶かしますので、かなり強固に接着することができます。写真2に示すように、大抵の市販品では刷毛と缶の蓋が一体になっています。接着部分の両面(管の外側と継手の内側)に塗布し、管を継手の中に充分押し込みます。接着剤の成分はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンですので、換気に注意しましょう。

[耐薬品性] 最初に述べたように酸やアルカリには耐性がありますが、アセトンなどの有機溶剤には溶けます(溶かして接着できるくらいですから)。写真3はアセトンに浸した脱脂綿を1分程度継手に乗せておいた後の様子ですが、矢印が示すように、表面が僅かに溶けて流れています。このようにアセトンが少しかかった程度でしたらあまり問題はありませんが、長時間有機溶剤に接触するような使い方は避けなければなりません。

[耐用] 私が9年前に作った配管はまだ何ともありません。どの位の期間にわたって使用できるのかはわかりませんが、PVCは真空ゴムホースのように劣化していくと考えておいた方がよいと思います。

使用例

 冒頭の写真1は、継手(エルボ)に短いPVC管を接着し、真空ゴムホースの粗引き系の一部として用いた例です。口径の比較的大きい真空ゴムホースはこのように直角に曲げると扁平になることがありますので、流路を確保するための処置です。チーズ(ティー)で流路を分岐する方法もよく用います。

 写真4は、油回転ポンプにPVC管を接続している部分です。この場合には主配管はPVC管とし、ポンプと柔軟性を持たせて接続するために真空ゴムホースを用いています。

 写真5(注2)は真空用ではありません。ビュアとして用いているガラスの円盤をフランジに固定するための押さえです。この部分を金属にするとガラスが割れるおそれがありますので、柔らかい材質としてPVCを用いました。参考として掲載しておきます。

以上

(注1) 水道用としてなら取り外し可能な継手を用いることができる。ここでは真空配管用としての説明であることに注意していただきたい。 (注2) 私が利用している共同実験室にある真空チャンバの写真


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。