「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

5−3(1) アクリル樹脂(PMMA)

1999.05.01

keywords: polymethyl methacrylate, PMMA, MA, acryl


 アクリル樹脂は、強度があり、透明度の高い樹脂です。高真空領域までの窓材として利用することができます。

PMMAの性質

 アクリル樹脂(acrylic resin)とはアクリル酸やその誘導体を重合したものの総称ですが、ここでは代表格であるメタクリル樹脂(polymethyl methacrylate; PMMAまたはMA)について説明します。

 PMMAはメタクリル酸メチルの重合体 [CH2C-CH3-COOCH3]n で、CとHとOのみの化合物です。密度 1.19 g/cm3 で透明度が高く、硬質PVCと同等かそれ以上の強度があります。しかし、衝撃に対しては弱く、欠けたり割れたりします。傷が付きやすいことも欠点です。耐熱性は低く、使用温度は80〜100゚Cまでです。弱酸、弱アルカリには耐性がありますが、アセトンやアルコールなどの有機溶剤には溶けます。樹脂の中では有機溶剤に弱い部類に属するでしょう。接着にはアクリル専用の接着剤を用います。

ガス放出量

 排気後1時間のガス放出量 q は 1.5E-3 Pam3/sm2、5時間で 7.3E-4 Pam3/sm2 です[8]。この値からは、q は時間に反比例するというよりも、時間の平方根に反比例しているようです。この傾向は、別の教科書[3]に記載された図(注1)からも読みとることができます。q の値は樹脂の中ではやや大きいようです。ガスの成分は水と一酸化炭素[3]です。単純なガスしか放出されないことはPMMAの構成元素が H と C と O であることによると思います。

 アクリルを窓材に利用している人によると、加工面からはかなりガスが出るそうです。 これは、アクリルの吸湿性が高い(約0.3%)ことと関係があるかもしれません。加工面は比表面積が大きくなっており、多量の水を含み得ると予想されるからです。成型された面と加工面のガス放出量の違いについてご存じの方がおられましたら、是非お知らせ下さい。

 なお、使用温度上限程度(85゚C)に加熱・ベーキングするとガス放出量は1桁以上低下しますが[3]、ここまで苦労するなら他の材質(窓材ならガラス)を使った方がよいでしょう。

素材の形状と寸法

 理化学機器を扱っている業者からは、管(外径10〜510mm)、丸棒(直径10〜50mm)、板(厚み1〜10mm)などを入手することができます。括弧内の数値は一例ですが、管はかなり種類が多く、様々な肉厚と外径の組み合わせが市販されています。

特徴と用途

 上で述べた性質からわかるように、構造材としてはあまり適していません。しかし、アクリルは光の透過率が92%もあることから、いわゆる有機ガラスとしてレンズなどに用いられており、真空槽の窓材として魅力があります。

 写真1は、2インチ(呼び50)のJIS真空フランジに、同じ寸法のアクリル製フランジを窓材として取り付けた様子です。中がよく見通せることがわかると思います。真空側に露出した面積を 38 cm2(Oリング内径70mmより)、ガス放出量を 7.3E-4 Pam3/sm2、この部分の排気速度を 30 L/s とすると、アクリルからのガス放出による圧力の増分は 0.09 mPa となります。排気系全体でアクリル製フランジが1、2枚なら高真空領域まで使用できる可能性があります。

 低真空領域の利用例ですが、アクリル製の真空デシケータ(通常は角型)や真空グローブボックスが市販されています。その透明性と接着性を活かした使い方だと思います。低真空〜中真空ではガス放出をあまり気にしないで済みますので、アクリル管を真空槽とするような使い方も考えられます。どこからでも中が見えますので、教材として便利かもしれません。

加工と使用上の注意

 ドリルで穴を開ける場合、送りが早いと貫通するときに縁が欠けたりしますが、一般的な機械加工はできます(少しイヤな臭いがします)。ただし加工面を透明にすることは難しいので、間違っても面全体を削るようなことは考えてはいけません(注2)。

 高真空領域で使用する場合には、加工面が真空側にならないような注意も必要です。写真1のように、円板をフランジとして使用するのであれば、加工面である外周もボルト穴も大気側ですから問題ありません。しかし、右図(a)のように穴をあけて何かを導入したい場合(注3)は、(b)のように加工面を大気側にするように工夫します。

 アクリルどうしの接着は専用の接着剤を用います。真空デシケータなどはこのようにして気密性を保っていると思いますが、私は真空用に接着した経験が無いため、どの程度の気密性かは判りません。

 フランジのような小物であれば、ガラスとは違って床に落としても割れることはありませんが、透明性が重要なので表面に傷をつけないように注意しなければなりません(注4)。有機溶剤は禁物ですが、アセトンやアルコールであれば、直ぐに拭き取れば大丈夫です。

 アクリルは日光の影響を受けやすいのですが(注5)、室内で使用していれば透明なままで、長期間にわたって窓材として使用できると思います。

以上

(注1) 図の欄外でプレキシグラス(Plexiglas)と書いてあるのがアクリルである。プレキシグラスは Rohm & Haas 社製PMMAの商品名である。 (注2) 加工面が透明になり難いのは、金属に較べて脆いためだと思われる。研磨すると透明になるかもしれない。加工面を水で濡らして透明に見せる裏技(?)は、真空側では使えない。 (注3) 例えば電流導入端子など。ガラスと違って容易に加工できるため、窓材と絶縁材を兼ねることができるのがアクリルの特徴である。 (注4) 眼鏡のプラスチックレンズとガラスレンズ程度に、傷の付き易さが異なる。 (注5) アクリル製の水槽を長期間戸外に放置していると失透する。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。