「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

1−3 用語、単位、記号

1998.09.12
1999.02.22 改

keywords: unit of pressure, mass flow rate, conductance, pumping speed, lusec


用語

 「真空」という語については先に述べた通りですが、他にも聞き慣れないか誤解しそうな用語や略語があります。この業界用語のようなものは、JIS Z8126(真空用語)で規定されていますので、そちらを参照して下さい。このページではできるだけJISに準拠した用語を用いることにします。なお、JIS Z8127(真空ポンプ及び関連用語)と JIS Z8128(真空計及び関連用語)は、JIS Z8126 の改正(1990.7.1)によってこれらの用語がまとめて収録されましたので、同日廃止になりました。

 以下は、予備知識(?)としてのいくつかの用語・略語です。JISに規定されていない用語もあり、規定されている用語もJISの通りに説明しているわけではありませんが、日常よく使う言葉として列記しました。

圧力の単位

 圧力の単位はSI系では Pa (=N/m2) ですので、真空の分野でもこれを用います。天気予報などで hPa(ヘクトパスカル) という単位が使われるようになり、やや馴染んできたようです。これに対し、水銀柱をひっくり返して真空を作ったトリチェリに因んだ Torr という単位は SIでは無いものの、今でも根強く残っています。

 下に atm(気圧)、Pa、Torr の換算表を示します。圧力を桁で考える場合には、1 Torr 〜 100 Pa と換算しても構いません。
    Pa  Torr   atm
 1 Pa   1 7.501E-3 9.869E-6
 1 Torr  133.3   1 1.316E-3
 1 atm 1.013E5  760   1

 上記以外では、psi (pounds per square inch) という、ヤード・ポンド法を用いているお国独特の単位があります。psi 単位の数値に 0.07 を乗じると、ほぼ atm 単位での値になります。

 水銀マノメータで測定すると Torr 単位での圧力が直読できます。760mm の水銀柱が 1atm に相当することを実際に眼で確認できますので、Torr という単位は判りやすいのです。これが今でも慣用的に用いられている理由でしょう。 Torr は mmHg と表されることがあり、特に古い論文に多く見られます。中には Hg を省略して単に mm や μ などと水銀柱の高さをそのまま記載している場合もあります。

流量の単位

 真空中でも多数の分子は存在しますから、圧力差が生じれば、気体分子は平均としては低い圧力の方に流れます。従って、この流れの量、つまり流量を表す単位も必要です。

 水の場合には、その密度は圧力や温度にあまり依存しませんので、流量を kg/s という質量流量単位で表しても、m3/s という体積流量単位で表してもあまり差し支えありません。しかし、気体の密度は圧力や温度に強く依存するので、体積流量単位で表すと、圧力や温度なども併記しなければならず、不便です。ですから、気体のような圧縮性流体の場合には、原則として質量流量で表します(注1)。

 とは言いましても、流れる気体分子の質量は僅かですから、kg/s で表すととても小さな数値になります。また、圧力単位との関係もよく判りません。そこで、温度が一定で気体は理想的であるという前提で、Pa・m3/s という質量流量(と見なせる)単位が用いられます。状態方程式は pV = nRT ですから、温度 T が一定であれば、pV (圧力×体積)は分子のモル数 n、つまり気体分子の質量に換算できるからです。なお、Pa・m3/s は Nm/s と書くこともできますが、見たことはありません。

 圧力の単位としてTorr を用いますと、流量の単位は Torr・L/s になります。また、atm 単位に対応した atm・cm3/s も稀に用いられます。以下に換算表を示しておきます。
  Pa・m3/s   Torr・L/s atm・cm3/s
1 Pa・m3/s    1   7.501   9.869
1 Torr・L/s   0.1333    1   1.316
1 atm・cm3/s   0.1013   0.760    1

 lusec という単位を見かけることがあるかも知れません。これは、μHg・L/s のことで、1 lusec = 0.001 Torr・L/s です。

(注1) 送風機や排風機の風量は m3/s 単位で表されるが、これは圧力がほとんど 1 atm で、温度が室温と見なせるからである。真空では圧力が何桁にもわたっているので、体積流量は用いられない。

コンダクタンスの単位

 コンダクタンスって一体何?、という疑問については真空に関連する図書または付録A-8を参照して下さい。ここでは結果だけ述べます。

 コンダクタンスの単位とポンプの排気速度の単位は等しく、SI系では m3/s です。 L/s で表すこともよくありますが、換算は簡単です。単位の次元を考えると、圧力×コンダクタンス = 流量 となりますので、覚えておくと便利です。

記号 

 それぞれのページでは、使用する記号を説明するようにはしていますが、以下のようなものについては説明を省略していることがあります。また、同じ記号を別の意味で用いている場合もありますので注意して下さい。

  C  コンダクタンス
  G  流量
  k  ボルツマン定数
  m  (分子の)質量
  p  圧力
  R  気体定数
  S  排気速度
  t  時間
  T  絶対温度
  v  速さ、速度
  V  体積、容積
  λ  平均自由行程
  Λ  自由分子熱伝導率
  π  円周率

   


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。