「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

1−1 序文と凡例

1998.09.25
1999.04.12 rev.1


短い序文

 このページは、実験室で比較的容易に得られる真空を対象にし、かつ、真空工学に関する教科書を補うことを目的に作成しつつあります。具体的には、

 ・写真や図による装置等の例示
 ・最近の教科書では省かれている旧来の技術
 ・教育上、効果があると思われる自作機器例の紹介

などに重点をおく予定です。断片的に過ぎれば判りにくくなりますので、教科書との重複を承知で一通りの事項については説明しますが、それでも真空全般にわたる記述はしていないことをご了承下さい。教科書とは、長年にわたってその分野に携わってこられた専門家が、幅広い知識、経験を系統的に記述した本ですので、これから勉強したい人は、先ずはそちらの方を読まれることをお薦めします。その合い間にこのページをご覧になり、実験のために真空装置を組んだり、運転したり、見学したり、あるいは部品を製作したりする場合に、もし役に立つことがあれば幸いです。また、真空に関するアイデアやご意見、このページへのご要望がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。(rev.1)なお、このページの文責は作者にあり、記述に誤りが無いように十分に注意を払って作成していますが、もし説明が不十分であったり誤りがあれば是非ご一報下さい。ご連絡の有無に拘わらず、不十分な点や誤りは速やかに加筆・訂正致しますが、それ以外の責は負いかねますことを予めご了承下さい。

一般的な注意事項

  指数表現: 例えば、1.9E-23 は 1.9×10-23 を意味します 
  積分範囲: 式中ではなく文中で指定します
  平方根 : 通常は1/2と表しますが、√を使うこともあります。

商品名について

 もとは商品名であったのが、今では一般名称のようになっているものがありますので、列記しておきます。

  


− ここからは、長い序文です。お急ぎの方は飛ばして下さい。 −

真空とは?

 「真空」とは大気圧よりも低い圧力領域を言い、何も無い空間だけを意味する訳ではありません。TVのブラウン管の中も、魔法瓶の二重壁の間も、吸盤とガラスの隙間も、採血する時に引かれたピストンと注射器のシリンダとの間に一瞬できる空間も、全て真空です。きっと随分といい加減な用語だと思うでしょう。それなら、「高温」という語を思って下さい。人によっては核融合プラズマの1億度が、また別の人は高温超伝導の−200度が浮かぶかもしれず、基準は必ずしも明確ではありません。その点、「真空」の場合、大気圧という基準があるだけまだましです。繰り返しますが、真空とは読んで字の如くでは無く、負圧の総称です。

真空工学

 大気圧より低い圧力が真空なら、「真空」の状態でも気体分子が存在し、圧力に差があれば、平均するとより圧力の低い方へ気体分子は移動、つまり流れが生じます。どれだけ流れるのか、気体の種類が違えばどうなるのか、そもそも真空とはどうやって作り、どのように計り、どんなことに使われるのか、等といった事柄に答えるのが、「真空工学」とか「真空技術」とか呼ばれている分野です。

このページの内容

 このページの目的は、実験のために真空装置を組んだり、運転したり、部品を製作したりする場合に、役に立つと思われる情報を提供することで、この点では、一般的な教科書と変わりありません。ただ、内容が若干異なります。例えば、中真空領域で多用されてきたにゴム管は、図書[1]や[3]では説明されておらず、刊行の古い[5]に載っています。欠点の多いゴム管は金属製のフレキシブルチューブや樹脂製のチューブに替わりつつありますので、新しい技術を中心に解説した本に記載されていないのは当然です。しかし、その長所を活かすような状況では未だにゴム管は用いられていますので、少ないながらもこのページで紹介するのは大事なことと思っています。

 教育上、効果がありそうな事項も記載しました。何かと喧しい昨今、毒性の強い水銀を用いるマノメータやマクレオド計は、実験室から姿を消してしまいました。身の回りには、スイッチを入れると圧力が表示されるような計器ばかりになり、測定原理を知らないまま使う機会が多くなっています。構わないと言ってしまえばそれまでですが、原理の判りやすい、あるいは測定量を換算して物理量を求めるような計測器があれば、圧力や流れが実感できるのではないかと思い、試作したものを掲載しています。

 その他、教科書に記載されていて、重複することを承知の上で、説明しておきたい事柄や、いくつかの自作例を挙げました。ただ、超高真空に関しては、私自身の経験が少ないことと参考図書に詳しく記載されていること等から、ほとんど扱いません。市販品についても、通常の使い方に関しては同様です。

 蛇足ながら、一言。自作のモノは安価だというのは間違いで、設計や製作に関わる人件費等を考え併せると、メーカー品よりも高価だと思うべきです。一般にメーカー品は品質が一様で、安定して供給されますから、時間と空間と予算に余裕があるのなら、全てメーカーの規格品で統一して装置を組むことを薦めます。中にはオーバースペックな部品もあると思うかもしれませんが、互換性や耐久性を考えると、案外にそうでもありません。自作するメリットは、時間や空間の節約、教育上の効果、応急処置、市販品に無い機能等にありますので、メーカー品と上手く使い分けることが重要です。

 以下のページでは、ただ羅列するだけでは判りにくいと思いましたので、目次に示すように、項目毎に分類しました。項目どうしが関連する場合にはリンクし、基本的な知識−自作する場合の方が市販品を用いる場合よりも要求されます−についても、いくつかリンクしています。

 最後に、いくつかの自作例の発案者は私では無いことをお断りし、多くのアイデアや助言をいただいた方々に、この場を借りてお礼申し上げます。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。