「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

B-1 ピラニ真空計用定温度回路

1998.12.03

keywords: pirani gauge


概要

 定温度型ピラニ真空計用の簡単な回路例について説明します。この回路は学生実験で実際に使用しています。

回路の構成

 定温度型ピラニ真空計では、金属細線に電流を流して加熱し、その温度を一定に保ったときの電流値から圧力を求めます。金属の抵抗値は温度と共に単調に増加することから、実際には抵抗値を一定に保って定温度を保証しています。従って、測定器は可変電源と抵抗値検出系、および電流表示器から構成されます。市販品では電流値の替わりに換算された圧力を表示しますが、ここで製作した回路では換算は行いません。

測定子の仕様

 先ず、ピラニー真空計の測定子仕様から基本的なパラメータを見積もります。測定子は、自作するよりも市販品を購入した方が手間がかからず、品質も一定しますので、A社製品を用いることにしました。この測定子は、取扱説明書によると直径 d = 25μm の白金細線を用いており、使用温度 T は 473K (200゚C) です。測定子の電極は7個ありますが、実際には2極しか使用していません。つまり、測定ケーブルの電圧降下は補償していません。このためかケーブル長は固定されています。測定子を分解して実測すると細線の長さ a は 56mm でした。473K での白金の抵抗率 0.176μΩm から抵抗値 R を計算すると 20Ω になります。

 次に電源の容量を決めるために、放熱量を計算します。本文で説明しているように、細線に流れる電流を I 、圧力 p 、自由分子熱伝導率を Λ、適応係数を α とすると、

2R = Ap + I02R  (1)

A = αΛπda(T−T0)     (2)

という関係があります。I0 は、圧力が 0 の場合に細線に流れる電流ですが、この段階では 0 を仮定しておきます。T0は室温(298 K) です。また、α = 1 を仮定します。自由分子熱伝導率 Λ は、

Λ = (γ+1)/2(γ-1)・(k/2πMT')1/2  (3)

と表され、k はボルツマン定数、γ と M はそれぞれ気体の比熱比と質量、T'は気体の平均温度 (T+T0)/2 です。窒素ガスを想定しますと、M = 4.7E-26kg、γ = 1.4 (2原子分子) ですから、T0 = 298K、T = 473K より、Λ = 1.04 m/Ks を得ます。

 以上の数値より、p = 500Pa(注1) の場合の電流値を求めると 140mA になります。また、このときの電圧と電力(放熱量)はそれぞれ、2.9V と 0.4W です。

ブリッジ回路

 抵抗値を一定に保つためには、右図のようなブリッジ回路が便利です。ブリッジを構成する抵抗 R1 は 1kΩ(1/2W,1%)、R2 は白金細線と同じ抵抗値の 20Ω(2W,1%)で、両端の非平衡電圧をオペアンプ A1(LF356)に差動入力し、出力をパワートランジスタ TR1(2SD856A)のエミッタフォロワで受け、ピラニ測定子の抵抗値が常に R2と同じ値になるように、ブリッジに印加する電圧を自動的に調整する単純なフィードバック回路です。

 非平衡電圧はデジタル電圧計V(旭計測器 AP101-12-3, 分解能1mV, max2V)で、細線に流れる電流はデジタル電流計A(旭計測器 AP101-25-3, 分解能1mA, max2A) で測定・表示しています。これらはアナログ式のメータでも良いのですが、最近では両者の価格差はほとんどありません。なお、電圧計はフィードバック回路が正常に働いていることを確認するためのものですので、無くても構いません。

 前節での検討から、細線に加える電圧は3V 程度と見積もられましたので、ブリッジ全体としてはその2倍の6V は必要です。これはオペアンプ駆動の電圧(12V)よりも小さいため、両者の電源を共通にすることができます。オペアンプそのものは電流をほとんど消費しませんので、+12V の容量は 200 mA あれば良いでしょう。この他、デジタルメータの駆動用に 5V (1台約 80 mA) が必要ですので、+12V (300mA)、-12V (100mA)、+5V (1A) のスイッチングレギュレータ(KMC-15)を用いました。

 その他の素子のパラメータは、C1 (0.01μF)、VR1 (30kΩ-B)、R3 (300Ω 1/8W)、R4 (10kΩ 1/8W) です。オペアンプは普通のものでよく、FET 型の LF356 は少し高級だったかもしれません。ドライバのトランジスタ 2SD856A (80V-3A)は手持ちのものを流用しました。30 〜 100V で 1 〜 3A のパワートランジスタなら何でもよいと思います。

 ブリッジに使用する抵抗はできるだけ精密であることが望ましいことと、入手の容易さから、F級(誤差1%)にしました。発熱による抵抗値の変化をできるだけ少なくするため、R2 は容量の大きいものを選びましょう。R1には電流を流す必要はありませんので、R2よりもかなり高い抵抗値のものを用いました。もし、R2と同程度の抵抗を用いると、電源の容量が足らなくなるおそれがあります。

動作試験

 ブリッジ回路の配線を測定子の電極に接続し、電源を投入すれば数秒で電圧計は0を示す筈です。細線に流れる電流が、大気中で 120mA 程度、高真空中で 10mA 程度であれば、回路は正常に動作しています。VR1は特に調整する必要は無いでしょう。

(注1) この圧力では分子流とは見なせないため、(1)式や(2)式を用いることはできず、放熱量は0.4Wよりも小さくなる。500Pa という値は、電源の容量を余裕をもって見積もるために設定した数値である。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。