「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

5−3(4) ポリアセタール(POM)

1999.05.22

keywords: polyacetal, POM, Delrin, polyoxymethylene


 デルリン(Delrin:du Pond社)やジュラコン(ポリプラスチックス社)で知られるポリアセタールは比較的強度があり、耐薬品性に優れ、加工しやすいエンジニアリングプラスチックです。絶縁を兼ねた構造材(フランジや支柱)に適しています。

ポリアセタール(POM) の性質

 ポリアセタールはアセタール結合を主鎖とする重合体ですが、その一つであるポリオキシメチレン(略称POM、別名ポリホルムアルデヒド) [-CH2O-]n が代表的であるため、ポリアセタールとPOMはほぼ同じ意味で用いられているようです。POMだけから成る均質重合体(注1)と、[-CH2-CH2-O-]m などのような結合を含む共重合体の2種類があり、デルリンは前者、ジュラコンは後者です。

 均質重合体と共重合体とでは性質が若干異なりますが、比重約1.4、引張強さや曲げ強さはPCに匹敵しますが、耐衝撃性はやや劣ります。一般に白色〜乳白色をしています。吸水率は0.22〜0.25%で、樹脂の中では標準的な値でしょう。酸やアルカリには弱く、アセトンなどの有機溶剤には耐性があります。使用温度の上限は 110゚C程度です。

ガス放出量

 ガス放出量のデータは見あたりません。経験では、高真空の排気系に取り付けているステンレス鋼製のJIS真空フランジ(2インチ用)を1〜2枚、POM製に変更する程度でしたら、 それほど真空度が悪化することはありません。ただし、他の樹脂と同様に、排気開始後数時間はガス放出量が多いようです。

素材の形状と寸法

 素材としては、丸棒(直径10〜200)や板などが市販されています。括弧内の数値は一例です。

 市販されている素材では、デルリン(均質重合体)の方がジュラコン(共重合体)よりも透明度が低い(より白っぽい)印象を受けます。長期間使用しているとデルリンは黄変することがあります(注2)が、機械的強度はデルリンの方が若干良いという利点があります。

特徴と利用例

 接着性は悪く、接着剤で接合することは避けた方が無難です(注3)。写真2ではPOM製のフランジにくぼみがありますが、この部分は削り出しです。

 加工性は非常に良く、旋盤加工で表面を平滑に仕上げることができます。また、ネジを切ることもできますが、下穴径は少し大きめにした方がよいようです。写真1は、真空ダクトとベローズとの間を絶縁するための厚いフランジです(注4)。これは棒から削り出し、ボルト穴の部分にM8めねじを切っていますが、せん断力がかからないように、またボルトを締めすぎないように注意すると、充分使用に耐えます。

 POMは自己潤滑性が有り、表面を触るとつるつると滑るような感じがします。歯車によく用いられるのはこの性質のためでしょうか。ただし、真空中でも潤滑性があるかどうかは知りません。 

 注意すべき点としては、接着性が悪いことの他に、丸棒素材では中心付近に漏れが発生し易いことが挙げられます。成形時の収縮率が大きいために、引け巣のような孔が存在しているのでしょうか。例えば、直径120mmの棒から切り出して作った2インチ用のJIS真空フランジ(厚さ10mmのブラインド)で、このようなことがありまし。写真1のように、中心をくり抜いて使用するのであれば問題はありません。また、写真2では直径10mm程度の孔を中心に開けて、電流導入端子(BNCコネクタ)を取り付けていますが、この例では漏れはありませんでした。中心付近は必ず漏れが生じるのか、生じるとすればどの程度の範囲なのか、などについては把握しきれていません。ご存じの方は情報をお寄せ下さい。なお、写真2のようなコネクタを2つ取り付けたい−つまり中心に穴をあけない−場合には、板からフランジを切り出した方がよいでしょう。板の場合には漏れが生じた経験はありません。

 上に示した絶縁フランジの他に、真空槽内の構造物を絶縁して支えることにも利用できます。写真3は、学生実験用の電子ビーム実験装置の一部(アインツェルレンズという静電場による電子ビーム収束器)ですが、上下に並んだ3つの電極の支柱としてPOMを使用しています。上の電極と下の電極(フランジ)はPOM棒の中に通したねじで電気的に接続されており、中段の電極を絶縁しています。

(注1) ホモポリマー(homopolymer) の訳語。一種類の単量体が重合した場合に限らず、二種類の単量体が例えば交互に重合した場合にも用いられる。 (注2) 同じ条件でジュラコンと比較した訳ではないし、黄変の原因は油などの付着によるものかもしれないので、私個人の印象と思っていただきたい。 (注3) 電極用の銅線をPOMに差込み、アラルダイトで接着して真空をシールする程度ならうまくいくこともある。しかしこの場合でも負荷が加わると漏れが起きてしまう。 (注4) 私が共同利用している実験室の真空ダクト。

以上


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したもの

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