「エネルギー理工学設計演習・実験2」別冊

2−1 真空ポンプの種類と用途

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keywords: vacuum pump, rotary, diffusion, turbo molecular, sorption


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 閉じた空間から気体を排気し、周囲よりも圧力を低くする(真空を作る)ポンプを真空ポンプといいます。水を汲み上げるような普通のポンプでは、吸込側のホースを水槽に入れ、吐出側を配管に接続しますが、真空ポンプでは逆になり、吸込側が被排気系(真空槽)で、吐出側が大気側です。掃除機を思い浮かべればよいかもしれません。ちょっと紛らわしいのですが、

 吸気口 : 吸込側 = 高真空側 = 被排気系に接続されている方
 排気口 : 吐出側 = 低真空側 = 大気開放されているか補助ポンプに接続されている方

と呼びます。

真空ポンプの種類と圧力範囲

 真空ポンプには様々な種類があり、到達可能な圧力や動作上限圧力、排気速度などが異なるため、目的によって使い分ける必要があります。主な真空ポンプの名称と動作圧力範囲を右図に示し、以下で極く簡単に説明します。また、写真1に示したポンプについては次節以降で詳しく述べます。これらのポンプは、単に私が使ったことがあるだけで、重要性を考慮して選択したわけではありませんが、単体あるいは複数組み合わせることによって、実験室規模の真空槽を低真空から高真空領域まで排気することができます。なお、真空ポンプの原理と排気速度につきましては、付録A-5を参照して下さい。

・アスピレータ : 水流ポンプとも呼ばれます。水道の蛇口につないで水を流すだけで 4 kPa 程度まで排気できますので、吸引濾過など水と混在する排気系に便利です。

・ドライ真空ポンプ : 油や水を使用していない真空ポンプの総称ですが、一般には 100 Pa 〜 10 kPa 程度の、蒸気の無い低真空を得るためのポンプを指します。ベーン式やダイアフラム式などがあります。工業的な要請により、最近では多種多様のドライポンプが開発されているようです。

・ルーツポンプ(メカニカルブースターポンプ) : 圧力範囲は油回転ポンプよりも狭いのですが、油蒸気が少なく、回転子が対称形なので振動が小さいのが特徴です。また、排気速度が大きく、3,000m3/h (50,000L/min) 以上のポンプも市販されており、工業目的に使用されることが多いようです。

・油回転ポンプ : 0.1〜10 Pa 程度の中真空を得るために最もよく利用されているポンプです。大気圧から動作し、連続して排気でき、使い方も簡単です。

・ソープションポンプ : 比表面積の大きい粒子を冷却し、気体分子を収着させることによって排気します。1台では連続運転できず、冷却のための液体窒素を絶えず補給しなければなりませんが、油蒸気の無い清浄な真空が得られるのが特徴です。なお、収着とは気体分子を取り込む現象、つまり吸着と吸収を意味します。

・エゼクタポンプ : 流体をノズルから噴射し、周囲の気体分子を取り込むことによって排気するポンプですが、油蒸気を噴射する油エゼクタポンプがよく用いられます。アスピレータは液体の水を作動流体とするエゼクタポンプとも言えます。油拡散ポンプが 0.1 Pa 以下の分子流領域で用いられるのに対し、油エゼクタポンプは 1〜100 Pa 程度の粘性流領域で用いられる点が異なっていますが、両者の構造はよく似ています。また、両者の中間の圧力範囲 (0.1〜1 Pa) で有効に作動する油拡散エゼクタポンプもあります。

・油拡散ポンプ : エゼクタポンプと同じように、油蒸気が気体分子を捕集することによって排気します。構造が簡単で 0.1 mPa までの高真空が容易に得られるため、よく用いられています。油蒸気の混入を少なくするためには、水冷バッフルや液体窒素トラップを併用します。なお、水銀蒸気を用いる水銀拡散ポンプもありますが、一般的ではありません。

・イオンポンプ(スパッタイオンポンプ) : 気体をイオン化して固体壁にインプラントすると共に、チタンの清浄な膜を生成して、ゲッタポンプのように気体分子を収着することによって排気します。ターボ分子ポンプと並んで超高真空を得るためによく用いられます。排気速度は 1〜1000 L/s 程度です。

・ターボ分子ポンプ : 薄い金属の羽(ローター)を、分子の運動速度程度になるように高速で回転させて、吸気側から通り抜ける分子の数よりも、排気側から通り抜ける分子の数を多くすることによって排気します。油拡散ポンプに較べて清浄な真空が得られますので、高真空から超高真空を得るために広く用いられています。

・ゲッターポンプ : 化学的に活性な固体表面が気体分子を収着すること(ゲッター作用)によって排気します。固体にはチタンが用いられますので、チタンサブリメーションポンプ、チタンゲッターポンプとも呼ばれます。清浄な表面を得るため、チタンを通電加熱して蒸発させ、周囲に蒸着膜を形成させることが名称の由来です。ソープションポンプと似ていますが、一般に収着は不可逆です。イオンポンプもゲッター作用がありますが、通常は区別されます。化学的に活性な分子しか吸着しませんので、他のポンプ(イオンポンプやターボ分子ポンプなど)と併用し、超高真空系の排気に用いられます。ポンプ本体はチタン蒸発部のみであり、真空槽内壁をゲッターにすることも可能ですが、通常は水や液体窒素で冷却した専用のチャンバ(ポンプケース)に蒸着して使用します。排気速度は蒸着面積と蒸着速度に依存しますが、製品のカタログによると、水冷ポンプケースで 1000 L/s 内外です。

・クライオポンプ : 低温で気体が凝縮(液体や固体になる)することを利用したポンプです。通常、凝縮させる部分(クライオパネル)を液体ヘリウムで 10〜20K 程度まで冷却します。到達真空度はこの温度での蒸気圧によって決まり、水素とヘリウムを除くと 1 nPa 以下の超高真空が得られます。ゲッター剤を置き、ソープションポンプの作用と併せて水素を有効に排気するポンプもあります。排気速度は気体によっても異なりますが、小型のポンプで 1000 L/s、大型では 10000 L/s 程度です。


このページは、高木郁二が担当している京都大学工学部物理工学科の講義・実験を補う資料として作成したものです。ご意見・お問い合わせはこちらまでお願いします。