薄膜シンチレーション検出器

薄膜シンチレーション検出器とは 

 プラスチックシンチレータを極薄く,厚さ1μm以下にしたフィルム状のシンチレータを薄膜シンチレータと言います.小さく削ったプラスチックシンチレータを溶媒に溶かし,その溶液を水面にたらすことによって,薄膜を作ります.それを針金の輪ですくい取り,ライトガイドに接着して,薄膜シンチレーション検出器(Thin Film Detector:TFD)を製作します.このTFDは1970年にフロリダ大学のMugaによって開発され,主に重イオンのタイミング測定に利用されてきました.



研究の背景

 わたしの博士論文の研究においても,核分裂片の通過タイミングを検出するために,利用しました.
 核分裂片がTFDを通過する時刻を飛行時間のスタート時刻,シリコン表面障壁型半導体検出器(SSBD)に到着する時刻をストップ時刻として核分裂片の飛行時間を測定しようとしていましたが,その予備実験をしているときに,飛行距離を長くしていくと次第に重分裂片が測定される割合が少なくなっていくことに気がつきました.
 これは困った現象です.この状態で実験をすると,軽核分裂片と重核分裂片の数が等しくならず,正しい測定になりません.

研究の概要

 一月ほど悩んだ後に,重分裂片によるTFD内部での発光量が少なく,信号として観測されないのではないか,ということに気が付きました.同時に,Mugaが報告しているTFDの発光に関するモデルの中に,TFDを特徴づけるはずのシンチレータの厚さが含まれていないことに気が付きました.
 そこで,シンチレータの厚さを含み,パラメータが一つだけ(Mugaのモデルには,多数のパラメータが含まれていた)のTFDの発光モデルを作り,核分裂片による発光量を計算し,自分の実験結果と比較し,非常によい結果を得ました.また,Mugaが報告していた実験結果をも大変明瞭に再現できました.
 この問題に出会ったのは,修士1回生の冬です.それから自分のモデルを作り,それを確認するための実験をしていきました.このおかげで,修士課程が大変楽しいものとなりました.

  
論文,特許など

I.Kanno and Y.Nakagome, “Response Characteristics of Thin Film Detectors to Fission Fragments”, Nucl. Instrum. and Meth. A251, 108-114 (1986).

I.Kanno and Y.Nakagome, “A New Model of Luminescence Production in a Very Thin Plastic Scintillator Film”, Nucl. Instrum. and Meth. A244, 551-555 (1986).

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