放射線検出器

放射線検出器

ガスを利用した検出器



図3 平行平板型検出器.

 ガスを電極の間に封入(流動させることもある)し,電極間に電圧を掛けて放射線検出器として利用する.利用するガスには,ヘリウム,アルゴンなどの希ガスの他,メタンやイソブタンなども用いられる.その場所の空間線量を測定するためには,空気を用いる.ガスの種類により多少変化するが,w値はほぼ30eV程度である.ガスを利用した検出器はその電極形状によって大きく二つに分類できる:(1)平行平板型と(2)円筒型である.

(1)平行平板型検出器  図3に示すような2枚の平板電極間の距離がdである検出器に,電圧Vを掛けると,2枚の平板電極の間の電場FはF=V/dで与えられる.放射線によってガスが電離されてできた電子とイオンが電場に従ってそれぞれ陽極,陰極に移動するにつれて電極に電荷が誘起される.

練習問題6 電極間距離が3cmの平行平板型検出器があり,電極間に3kVの電圧が印可されている.電子とイオンの移動速度はそれぞれの移動度μ,  μを電場に掛けた量として与えられる.いま,電極間の中央において放射線により一対の電子とイオンが生成されたとして,それぞれが陽極,陰極までたどり着く時間を求めよ.ここで,μ,μをそれぞれ103cm2/Vsおよび10cm2/Vsとする.


練習問題7 上記の平行平板型検出器の静電容量が50pFとする.6MeVのアルファ粒子がこの検出器に入射した場合に誘起される電圧を求めよ.ここで,w値を30eVとする.


(2)円筒型検出器  平行平板型検出器よりも強い電場によって電子を加速し,加速電子によってさらに電子・イオン対を生成して信号の増幅を行うために,円筒型検出器を利用する.概念図を図9.4に示す.中心軸上に半径aの細い芯線を張り陽極とし,周囲の半径bの円筒状電極を陰極とする.これらの電極間に電圧Vを掛けた場合の中心から距離rの点の電場F(r)は,F(r)=V/rln(b/a)となる.



図4 円筒型検出器の概念図. 写真は,GM管.


練習問題8 a=25μm,b=25mmで,1kVの電圧を掛けた場合に,中心から1mm,10mmの点における電場を求めよ.

練習問題9 前問において,電場が106V/m以上の領域でガス増幅が起こるものとする.ガス増幅が起こるのは,検出器全体の何%に相当するか.

 円筒型検出器において印可電圧を高くしていくと,入射した放射線のエネルギーに関わらず出力電圧がほぼ同じとなる状態となる.これがいわゆるガイガーミュラー(GM)計数管と呼ばれる放射線モニタの動作である.  

補足説明4 印可電圧が大きくなると,芯線付近の電場が非常に強くなる.放射線によって円筒型検出器内部に生成された電子・イオン対の電子は,芯線に近づくにつれて芯線付近に多数の電子・イオン対を生成する.このうち,電子はすぐに陽極芯線に到達するが,イオンの速度は小さく,移動に時間がかかる.この状況を芯線の少し遠方から見ると,陽極芯線の周りに正のイオンが多数集合し,芯線半径aが大きくなった状態となる.これにより,電場が弱くなり増幅率が小さくなる.このため,入射放射線のエネルギーが高く生成された電子・イオン対が多数あっても,芯線から遠い場所で生成された電子は増幅を起こすことができず,ほぼ一定の出力となる.  なお,芯線付近の正イオンがある程度陰極へ向かって移動するまで次の増幅は起こらないので,この時間に次の放射線が入射しても検出されない.これを不感時間という.


シンチレーション検出器  シンチレータとは,励起状態から基底状態へ遷移するときに蛍光(シンチレーション)を発する物質であり,シンチレーション検出器ではこの発光を利用して放射線を検出する.シンチレータは主に無機シンチレータと有機シンチレータに分けられるが,いずれも発光量が微少なので,光を電子に変換し増幅する光電子増倍管やフォトダイオードを用いる.

(1)無機シンチレータ 無機シンチレータは,少量の不純物を含むアルカリ金属の結晶である.密度,原子番号が高く,γ線の測定に有利である.欠点としては,光の減衰時間が1μs程度と長いこと,光子を生成するために必要なエネルギー(w値)が10eV程度と比較的大きいこと,および加工性が悪いこと,高価であること,が挙げられる.

表1 代表的な無機シンチレータの特性.


物質 密度(gcm-3) 立ち上がり時間(μs) 減衰時間(μs) 相対効率(%)
NaI(Tl) 3.67 0.5 0.23 100
CsI(Tl) 4.51 4 1.0 45
Bi4Ge3O12 7.13 0.8 0.30 8


代表的な無機シンチレータはNaI(Tl)である.他の無機シンチレータの発光量をNaI(Tl)を基準として表す.代表的な無機シンチレータの諸元を表9.1に示す.

(2)有機シンチレータ  無機シンチレータと異なり,密度がほぼ1gcm-3程度であり,w値は数eV,光の減衰時間は数nsと短い.また,様々な形状に加工しやすく,安価である.発光量は入射放射線の種類にも依存し,エネルギーへの比例性は良くない.タイミング検出器として利用されることも多い.プラスチック中にシンチレータを混入したプラスチックシンチレータ,溶剤にシンチレータを溶かした液体シンチレータなどがある.






図5 光電子増倍管.         図6 マイクロチャンネルプレート.

(3)光電子増倍管  典型的な光電子増倍管を図9.5に示す.光電子増倍管は光を光電陰極で電子に変換し,その電子を多段階のダイノードで106倍以上に増幅する真空管である.最近は,図9.6に示す,直径が数μmの鉛ガラス管を多数束ねたマイクロチャンネルプレートも利用されている.

練習問題9.10 ダイノード間の間隔が12mm,電位差が150Vの光電子増倍管の場合,ダイノード間の電子の走行時間を求めよ.電場は一様であるとする.


半導体検出器  半導体を作動媒体とした検出器であり,放射線がエネルギーを付与することで電子と正孔とが生成される.用いる半導体の種類によるが,w値は数eVであり,広範囲のエネルギーを持つ放射線に対し,出力波高とエネルギーとの比例性が良い.また,密度が高く検出効率が良い,様々な形状に加工しやすい,など利点が多い.  
 検出器として用いられる典型的な半導体はSiとGeである.半導体には微量な不純物元素が含まれており,これにより電子あるいは正孔が半導体中にもたらされ,作動電荷となる.しかし,放射線によって電子と正孔とが生成された場合に,それらが半導体中の正孔や電子と結合してしまうと放射線検出ができなくなるため,作動電荷が存在しない領域(空乏層)を作る必要がある.この方法には,(i)p型とn型半導体を接合する方法(pn接合),(ii)半導体表面に金属を接合する方法(表面障壁型),および(iii)真性半導体(i型)をp型とn型半導体で挟む方法(pin接合)とがある.この中でpin接合では真性半導体部分の電場は平行平板型ガス検出器と同様に一定である.



シリコン表面障壁型半導体検出器(SSBD)  SSBDは,陽子,α粒子および重イオンの測定に用いられる他,X線,中性子の測定にも利用される.エネルギー分解能,タイミング分解能が良く,室温で利用でき,様々な形状への加工も容易である.また,実験室レベルで製作可能である.実験研究,産業応用などにおいて最も広く用いられている検出器の一つである.

ゲルマニウム(Ge)検出器  GeはSiよりもw値が小さく,また原子番号,密度が高いことから,γ線測定に利用されている.エネルギー分解能に優れており,NaI(Tl)シンチレーション検出器では分解できなかった近接したエネルギーのγ線を分離できる.一例を図9.8に示す.Ge検出器の欠点は,液体窒素などを用いてGe素子を冷却する必要があることである.




 図7 Si表面障壁型検出器とGe検出器




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