放射線の検出方法

放射線の検出方法

放射線の種類  放射線には,X線やγ線などの光子,電子,アルファ粒子,様々な原子番号・質量数を持った加速粒子,および中性子など,多くの種類がある.これらを分類する方法は多数あるが,ここでは電荷を持つ放射線と電荷を持たない放射線に分ける.  
 放射線を検出するには,多くの場合,放射線によって引き起こされた電気的相互作用の結果生まれる電子などを測定する.電子やアルファ粒子などのように,放射線自身が電荷を持つ場合には,それらが何らかの物質に入射した結果,その物質を電離するので,電離された電子とイオン,半導体の場合には電子と正孔とを電気的に測定することができる.光子や中性子はそれら自身は電荷を持たないので,物質と相互作用させて,電子や陽子など電荷を持つ粒子(荷電粒子)に変換する必要がある.  
 放射線のエネルギーを表すために,eV(エレクトロンボルト)という単位を用いることが多い.これは,単位電荷を持つ粒子を1Vのエネルギーで加速した場合のエネルギーを表し,eV=1.60x10-19Jである.放射線計測では非常に広いエネルギー範囲の放射線を対象とするので,接頭詞を用いて,meV,keV,MeVのように記述する.また,荷電粒子などの質量を原子核質量単位amu(=1.66x10
-27kg)で表す.


補足説明1 光子と物質との相互作用として,光電効果,コンプトン散乱,電子対生成がある.光電効果では,光子が原子に吸収され,光子のエネルギーより少し小さなエネルギーを持つ電子が放出される.コンプトン散乱では,光子が電子を散乱し,そのエネルギーの一部を電子に与える.電子対生成は,光子のエネルギーが電子の静止質量の2倍以上の場合に起き電子と陽電子を生成し,余ったエネルギーは電子と陽電子との運動エネルギーとなる.

補足説明2 中性子を荷電粒子に変換する方法は大きく分けて二つある.一つは,中性子が物質を構成する原子核に衝突し,その原子核をはじき出す反応である.中性子の質量数が1であるので,同じ質量数を持つ陽子がはじき出されやすい.このため,陽子,すなわち水素原子核を多く含む水,ポリエチレンなどを用いる.また,原子核反応を用いるのも有効である.すなわち,中性子が原子核に吸収され,その結果,荷電粒子が放出される反応を用いる.代表的な例を以下に示す. (i)  105B + n -> 73Li + alpha + 2.8MeV   または  -> 73Li* + a + 2.3MeV (ii)  63Li + n -> 31H + alpha + 4.8MeV (iii) 23392U, 23592U, 23994Pu + n -> X + Y + 約200MeV.


練習問題 1 一般にエネルギーE,質量mおよび速度vとの間には,E=mv2/2,の関係がある.距離(m),質量(kg),時間(s)のMKSA単位系から,距離(cm),質量(amu),時間(ns)およびエネルギー(MeV)の単位系に書き換えた場合,E=kmv2/2の比例定数kを求めよ.

練習問題 2 ウラン235が中性子を吸収して核分裂を起こし,質量数100amu,エネルギー120MeVの核分裂片と,質量数136amu,エネルギー80MeVの核分裂片に分裂した.それぞれの核分裂片の速度をcm/nsの単位で求めよ.

練習問題 3 室温において平衡状態にある中性子は,エネルギー0.025eVを持つ.この熱中性子の速度をcm/nsおよびm/sの単位で求めよ.


放射線の測定  放射線の測定には,(1)計数(率)測定,(2)エネルギー測定,(3)タイミング測定,がある.

(1)計数(率)測定 単位時間内に測定される放射線の数を測定する事により,放射線源の強度,その場所にある放射線の量などを評価する.計数が少ない場合には統計誤差を考慮する必要がある.また,計数率が高い場合には,検出器の不感時間や数え落としに注意を払わなければならない.解釈を広げると,胸部レントゲン撮影も像の濃淡が測定されるX線の数に起因するので,計数測定と呼べる.

(2)エネルギー測定 放射線のエネルギーを測定し,エネルギー分布を求め,測定対象の性質を解明する.より精密な測定のために,エネルギー分解能(後述)が良い検出器を利用する.

補足説明3 ICやLSIなどはシリコンを加工して製作された多数の小さな素子から成っている.小さな素子が正確に動作するためには,シリコンに含まれる不純物を可能な限り低減する必要がある.このためにシリコンの厳重な検査を行う.細いレーザー光をシリコンウエハの表面を走査するように当てる.不純物元素があるとその元素がレーザーによって励起され,元素特有のX線を放出する.このX線のエネルギーと数を測定することで,不純物元素の種類とその存在密度を知ることができる.

(3)タイミング測定 放射線の種類とエネルギーにより速度が異なることを利用して,核種識別を目的として測定する.また,中性子が測定対象の時には,二点間の飛行時間を測定することにより,中性子のエネルギーを精度良く決定できる.  

  放射線検出実験の代表的な装置図を図1に示す.


図1.放射線検出器を用いた測定回路.

 検出器では,放射線が検出器の作動媒体(気体,液体,固体からなる絶縁体,半導体,金属,超伝導体)を電離する事によって生成された正,負の電荷を電極に収集する.生成された電荷が再び結合しないように,検出器に電圧を掛け,効率よく電荷収集を行う.収集電荷量に比例した電圧として,出力する.検出器で得られる電圧は,通常,数mV程度である.  

 前置増幅器は,検出器と主増幅器とをつなぐ役割を持ち,検出器の出力を数10倍に増幅する. 主増幅器は,入力電圧を数百倍から千倍程度に増幅する.この際にノイズまで増幅しないように,50mV程度以上の入力電圧だけを増幅する.増幅器の最大出力は10Vである. 測定しようとするパルスにノイズ成分が入っていないか,あるいは望みの出力波高が得られているか,などを確認するためにオシロスコープを利用する. 測定する放射線のエネルギー分布(エネルギースペクトル)をマルチチャンネル波高分析器(MCA)で測定する.MCAにはアナログ−デジタル変換器が用いられており,放射線の入射によって生成された電圧波高値(アナログ)をチャンネル(デジタル)に変換する.

練習問題4 シリコンを用いた半導体検出器では,3.6eVのエネルギーが付与されると電子と正孔とが一組生成される.この一組の電子と正孔とがそれぞれ検出器の陽極および陰極へ移動することにより,単位電荷が誘起される.さて,3.6MeVのエネルギーを持つ陽子がこのエネルギーを全てシリコンに与えた場合,生成される電子・正孔対の数を求めよ.この数の電子・正孔対が電気容量200pFの検出器内部に生成された場合に,検出器に誘起される電圧を求めよ.ただし,単位電荷は1.6x10-19Cとする.

練習問題5 超伝導体を用いた放射線検出器では,1.8meVのエネルギー付与で練習問題9.4の電子・正孔対に相当する準粒子が生成されるものとする.超伝導体放射線検出器と半導体放射線検出器とに同一の3.6MeVのエネルギーが付与された場合の統計精度をそれぞれ求めよ.


エネルギー分解能



図2 (a)B,C,N,Oが同量存在し,エネルギー分解能130eVで測定した場合と,Nが10倍存在し,(b)130eVおよび(c)60eVのエネルギー分解能で測定した場合.  

 補足説明に記述したように,どれくらい異なるエネルギーを識別できるか,が放射線検出器の性能を左右する場合が多い.図2にエネルギー分解能の例を示す.
 現在,典型的な半導体検出器は6keVのX線に対して130eVのエネルギー分解能を持つ.これは,130eVよりも大きなエネルギーの違いがあれば,それらのX線は区別できる,という意味である.図2(a)にはホウ素,窒素,炭素および酸素原子から放出される特性X線を上述の半導体検出器で測定した場合を示す.実際に観測されるのは,実線のようなエネルギースペクトルであり,4つの元素があることが分かる.
 しかし,図2(b)の様にたとえば窒素元素が他の元素の10倍存在した場合には,正確な測定ができなくなる.この状況で,エネルギー分解能が2倍良い60eVの検出器で測定すると,図2(c)のように4種類の元素が測定できる.  
 放射線検出器のエネルギー分解能は,放射線によって生成される電荷(電子,電子・イオン対,電子・正孔対,など)の数に主に依存する.同じエネルギー,同じ種類の放射線が同じ放射線検出器に入射しても,生成される電荷の数Nにはある程度のばらつきがある.そのばらつきの大きさはN1/2で与えられる.エネルギー分解能は,このばらつきを生成電荷量Nで割った値として定義され,N−1/2となる.  一方,物質中で電荷を生成するために必要なエネルギー値wは,それぞれの物質について求められている.ガスの場合には数10eV,無機結晶,有機プラスチックでそれぞれ約10eV,数eV,半導体の場合は種類に大きく依存するが1−数eV,そして超伝導体では数meVである.放射線のエネルギーEが付与された場合には,N=E/wの数の電荷が生成されるので,エネルギー分解能を高くするためには,w値が小さな物質を検出器の母材とすることが望ましい.


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