この研究に必要な資質

ちょっと偉そうな題目になってしまった

 もしみなさんが,高校生,あるいは大学の1-3年生で,このような研究に興味があるけど,将来やっていけるかな,とか思っていたり,また4回生で京都大学の原子核工学専攻の修士課程の大学院入学試験を受けてみようかな,と考えているのでしたら,以下を読み進んでください.

 私が研究している放射線物理学,特に放射線検出器関係の研究では,幅広い範囲の知識を使います.放射線検出器の母材としては,絶縁体,半導体,超伝導体,と電気特性で分けることができますが,それらの性質を知る必要があります.もっと卑近な言葉で言うと,セラミックの様なもの,プラスチック,シリコン,金属膜などを扱うので,それぞれの知識が要ります.
 でも,最初からそんな知識がなくても大丈夫.必要になった時に勉強すれば良いのです.逆に言うと,それぞれの物質の専門家があちこちにいますが,われわれはそのときそのときに,それぞれの分野の専門家にちょっとだけなります.しかも,ほかの分野を勉強してきて,別のある分野に入りますから,素人の新鮮な目,というものを常に持つことができます.専門家が常識と思っていることに,疑問を挟む,これがこの研究に必要な能力の一つです.

 それから,あれこれと手を出す,お気楽さ.これは,必要不可欠.
 あたらしい種類の放射線検出器を思いついても,それがうまくいくとは限りません.机の上では,良いアイディアと思っても,実際に作ることが困難であったりします.このような性質の研究をしていて生き残るためには,いつも複数の研究テーマを持って,そのうちの何かがうまくいけば良い,といった楽天性が要求されます.私の師匠は,われわれの仕事を「山師の仕事」と呼んでいます.うまくいくよりも失敗することが圧倒的に多い.だからそのことを知った上で,ちょこちょこと気軽にいろいろなテーマを進める,という事が必要になってきます.
 この仕事の性質のせいか,私が尊敬するこの分野の人たち,また仲の良い研究者仲間は,みんな落ち着きがない.特に落ち着きがないのは,私が師匠と仰ぐ,日本原子力研究所の片桐さん.それから,九州大学の石橋教授もあれこれ手を出す,お気楽な先生です.


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