低被曝X線撮像法



X線撮像の低被曝化

 X線透過撮影やX線CTは,身体の中の病巣を発見するための強力な手段です.特に,CTは3次元的な画像を得ることができるので,直径1cm程度の癌も発見することができます.しかし,CTの被曝量は,胸部レントゲン撮影の数10倍から1000倍と大きいため,健康な人が受診することは望ましくない,という状況です.我々は,このCTにおける被曝量を低減することで,将来,CTを健康診断に組み入れることを目標として,研究を行っています.
 現在のX線透過撮影や,X線CTなどにおいては,人体を通過したX線を測定する際に,X線を電流として測定しています.つまり,個々のエネルギー情報を利用していません.我々は,現在利用されていないX線のエネルギー情報を利用することで,X線撮影に置いて被曝量が低減できるのではないか,と考え,研究を行っています.
 
これまでの研究では..

 まず,癌組織が人体内部にあるかないか,を識別しやすくするためのヨウ素造影剤の観察を目的として,研究を行っています.このためには,ヨウ素がX線を吸収しやすいエネルギーである33keVの上下のエネルギー領域のX線の数を利用し,ヨウ素の有無を判断します.図は,加速電圧50kV,ランタンフィルタ100μm,水20cmを通過したX線のエネルギースペクトルです.赤がヨウ素がない場合,緑がヨウ素60μmがある場合です.φ1とφ2のイベント数を用いて,解析します.
 これまでの結果で,ランタンなどヨウ素よりも原子番号が大きい元素で作ったフィルタを利用することで,被曝量の削減が最大70%可能となります.つまり,被曝量が1/3となります.
 また,従来の電流測定法と比較すると,エネルギー差分法は,ヨウ素に2倍,敏感です.つまり,患者に注入するヨウ素量が1/2ですみます.
 さらに,エネルギー差分CT測定を行うことで,患者の大きさ(X線が通過する長さ)や,X線管の加速電圧に依存しないで,ヨウ素量を評価できることが分かりました.これは,従来の電流測定法では,できなかったことです.
 
現在の研究状況
 X線のエネルギーを測定すると,よいことがたくさんある,と分かりました.しかし,個々のX線のエネルギーを測定するには,時間がかかり,このままでは実用的なCTとすることはできません.そこで,X線を電流として測定しつつ,大まかなエネルギー情報を取得できる,電流モード検出器を考案し,特許出願し,現在,実証試験中です.
 

 

研究助成
 
 平成18-19年度「医療診断応用を目指した電流測定型X線エネルギー検出器の開発」,萌芽研究(代表).

  

論文,特許など

I Kanno, S. Maetaki, H. Aoki, S. Nomiya and H. Onabe, "Low Exposure X-ray Transmission Measurements for Contrast Media Detection with Filtered X-rays", J. Nucl. Sci. Technol., 40, 457-463 (2003).

I. Kanno, M. Takahashi, H. Aoki, and H. Onabe, "Energy Subtraction Method with Filtered X-rays for the Detection of Contrast Media", Nucl. Instrum. and Meth. in Phys. Res. A., accepted for publication.

I. Kanno, A. Uesaka, S. Nomiya and H. Onabe, "Comparison of Current and Energy X-ray Measurement Methods in Contrast Media Detection", Nucl. Instrum. and Meth. in Phys. Res. A 580, 534-536 (2007).

A. Uesaka, I. Kanno, S. Nomiya and H. Onabe, "Comparison of Current and Energy Methods in X-ray Transmission Measurement with CdZnTe Detector", Ionizing Radiation, 33, 159-163 (2007). (in Japanese)

I. Kanno, A. Uesaka, S. Nomiya and H. Onabe, "Energy Measurement of X-rays in Computed Tomography for Detecting Contrast Media", J. Nucl. Sci. and Technol., 45, 15-24 (2008).

出願番号 2003-17803 「X線撮像方法」,神野郁夫,前瀧聡,尾鍋秀明,青木久敏.

出願番号 2005-256867 「放射線検出器」,神野郁夫,尾鍋秀明,青木久敏.

出願番号 2007-211948 「被検体の大きさや加速電圧に依存しないX線透過画像およびCT画像取得法」,神野郁夫.


2008年1月月22-24日
高崎の原子力機構で,Co-60を使った実験.直径3cmの鉄ファントムに,アルミと真鍮が入っています.このCT測定を行いました. (上)左から山縣さん,大島さん(高崎研),三上君,橋本さん(大洗研),前列左 上坂君,わし.撮影は大高さん. (下左)電流モード検出器とファントム,(下右)かごの部分から出てくるガンマ線から電子機器を守るため,鉛ブロックを.
2007年11月月28,29日
大洗の原子力機構で,Cs-137を使った実験.直径3cmの鉄ファントムに,アルミと真鍮が入っています.このCT測定を行いました.
2007年10月31ー11月2日
電流モード検出器を用いた実験.原子力機構の大高さん,ラボラトリ・イクイップメンツ・コーポレーションの田辺姉妹が来てくれました.右下:電流モード検出器で撮ったCT画像.これからデータ処理してエネルギーCTとします.
  

研究内容へ