京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻
核材料工学研究室


水素透過の歴史(お話)

 1863年にDevilleは鉄中を水素が透過することを報告しています。鉄パイプに水素ガスを詰めて外からガスバーナーで加熱するというかなり荒っぽい方法でした。水素透過を最初に発見したのはGrahamだと言われていますが、報告は1866年です。いずれにせよ、150年も前から水素透過は知られていました。その後、1904年に透過量が外部の水素圧力の平方根に比例することをRichardsonが見つけ、1911年にSievertsが金属内部の平衡濃度は外部の水素圧力の平方根に比例することを示すなどして、水素の溶解や拡散、透過の理解が深まりました。これらの現象は1948年にSmithが"Hydrogen in Metals"という本にまとめています。

核融合炉の研究開発が進み、プラズマと材料との相互作用に関心が持たれるようになった1970年代後半は、プラズマ誘起透過(PDP; plasma-driven permeation)の黎明期でした。1975-1977年にLivshitsのグループが、1978-1980年にAli-KhanとWaelbroeckが、解離した水素原子の透過に関する実験とモデルを次々と発表しています。プラズマを使って透過実験するようになったのはその後であり、1983年にCauseyやKerstがプラズマ誘起透過という言葉を使い始めたようです。
 核融合炉から離れるともっと遡ることもできます。1965年にHeinrichはU-233から放出されるアルファ線を水素ガスに当てると、鉄中の水素透過量が増えることを見つけました。アルファ線が水素分子を解離したのでしょう。プラズマ誘起透過の走りと言えるかもしれません。1940年代は電気分解した水素を使って金属中の透過を調べる実験が行われています。水とプラズマとは随分違いますが、水素原子や水素イオンが存在する状態として見ると両者は似ています。研究というのは様々な分野と繋がりを持っているものですね。

1860年頃にDevilleが行った水素透過実験。鉄パイプに水素ガスを詰めてバーナーで加熱したところ、ガラス管内の水銀の液面が上がりました。普通ならガスは加熱されると膨張して液面が下がるはずですから、随分と驚いたことと思います。



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